コマンダンテ

映画『コマンダンテ』：フィデル・カストロの知られざる素顔

オリバー・ストーン監督によるドキュメンタリー映画『コマンダンテ』(Comandante)は、キューバ革命の象徴、フィデル・カストロへの独占インタビューを収録した作品です。ストーン監督は、『プラトーン』や『JFK』など、政治・社会問題を鋭く描いた作品で知られていますが、本作は彼の初となるドキュメンタリー作品でもあります。

2002年2月、ストーン監督は3日間かけてカストロ氏にインタビューを行い、30時間以上の貴重な映像を撮影しました。カストロ氏は撮影をいつでも中止できるとの条件を提示しましたが、実際には撮影は順調に進み、検閲も一切なかったとされています。

「コマンダンテ」という呼び名は、スペイン語で司令官を意味する称号であり、キューバ革命においては、チェ・ゲバラをはじめとする指導者を指します。しかし、現存する人物に対してこの言葉が使われる場合、それは一般的にフィデル・カストロ氏を指し、いわば彼の愛称となっています。

カストロ氏は、偶像化されることを嫌い、革命直後に自身の肖像を公の場に飾ることを禁じる法律を制定しました。そのため、キューバ国内で彼の肖像を見かけることは稀であり、公式な伝記も存在しません。この点において、『コマンダンテ』は、カストロ氏の表情や考え方を垣間見ることができる数少ない貴重な作品と言えるでしょう。

本作では、カストロ氏がケネディ暗殺事件に関する自身の見解を述べているほか、チェ・ゲバラとの別れやキューバ危機といった歴史的な出来事について、当事者としての証言を語っています。

2003年1月、サンダンス映画祭でプレミア上映された『コマンダンテ』は、HBOでの放送も予定されていましたが、同年3月に発生した民間機ハイジャック事件とその後の反体制派による一連の事件をきっかけに、在米キューバ人の強い反対運動によってアメリカ国内での公開は見送られました。日本のメディアも、事実上のお蔵入りと報じています。

しかし、スペイン、スウェーデン、イギリスなどのヨーロッパ諸国では順次公開され、日本では2007年に公開、その後DVDも発売されました。

『Looking for Fidel』：続編そして新たな視点

『コマンダンテ』に続く作品として、ストーン監督は2004年に『Looking for Fidel』を制作・公開しました。この作品では、2003年の反体制派による事件や、それに対するカストロ氏の対応などが語られています。

両作品を通して、フィデル・カストロという人物、そしてキューバ革命の歴史を多角的に理解するための貴重な資料として、『コマンダンテ』と『Looking for Fidel』は高い評価を受けています。これらの作品は、歴史の解釈や政治的立場に左右されやすい中、貴重な一次資料としての価値を保ち続けていると言えるでしょう。アメリカでの公開が叶わなかったという事実は、作品が持つ政治的なインパクトの大きさを改めて示していると言えるのではないでしょうか。

もう一度検索