ゴルトベルク変奏曲

ヨハン・ゼバスティアン・バッハの「ゴルトベルク変奏曲」（BWV 988）は、彼が1741年に発表した2段鍵盤用チェンバロのための変奏曲です。この作品は「クラヴィーア練習曲集」第4巻に収められ、バッハ自身は「アリアと種々の変奏」という表題を付けています。

「ゴルトベルク変奏曲」という通称は、当時不眠症に悩む伯爵のために、バッハが教えた音楽家の一人であるヨハン・ゴットリープ・ゴルトベルクが演奏したという伝説に由来します。この逸話に対する見方は懐疑的であり、ゴルトベルクは僅か14歳の少年だったことから、実際に伯爵のために演奏したかどうかは疑問視されています。

この変奏曲は、32小節から成る「アリア」で始まり、同様のテーマから生まれた30の変奏が挿入され、最後に再度「アリア」が登場するという独特の構成を持っています。各変奏は2部分で構成されており、特に第15、21、25の変奏はト短調として異なる印象を与えています。また、3の倍数の変奏はカノン形式で展開され、音楽的な多様性を持っています。

特に第3変奏から第27変奏にかけては、カノンの音程が徐々に広がりが見られ、第30変奏にはクォドリベットが仕込まれています。このクォドリベットは、ラテン語で「好きなように」という意味を持ち、バッハが人気のある曲を2つ組み合わせて仕上げた、ユニークな締めくくりとなっています。

この作品は、20世紀初頭まではあまり演奏されませんでしたが、ワンダ・ランドフスカによるモダンチェンバロの録音で再評価され、特にグレン・グールドのピアノ版は1956年に発表され、世界的に人気を博しました。グールドはレコード会社に反対されながらも、この作品を自身のデビュー盤に選び、評価が高まりました。

また、1974年に発見されたバッハの私蔵本の余白には、アリアの冒頭の8音を基にした14のカノンが新たに追加されています。バッハはこの14のカノンの中に、彼の名前と結びつく数字の象徴を見出したと言われています。

本作はもともとチェンバロのために書かれていますが、グレン・グールドを始め、さまざまな演奏者によってピアノでの演奏や弦楽三重奏版、室内オーケストラ版など、多様な編曲が行われています。ゴルトベルク変奏曲は、バッハの音楽の中でも特に豊かな表現力と緻密な構成を持つ作品であり、今もなお多くの人々に親しまれています。

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