しんせかい

小説『しんせかい』の詳細

『しんせかい』は、山下澄人による日本の小説で、2016年7月号の『新潮』に初めて掲載され、同年10月31日に新潮社から単行本として刊行されました。本作は2017年に第156回芥川賞を受賞しており、多くの批評家から注目を集めています。

あらすじ

物語の主人公は、名をスミトとする役者志望の青年です。彼は高倉健やブルース・リーの影響を受けながら、自給自足的な生活を営む演劇塾「谷」で学びます。この塾を設立したのは脚本家の「先生」であり、彼が手掛けたテレビドラマの主題歌を聞いてもスミトは何の曲か思い出せず、同級生たちを驚かせる場面から物語が始まります。

新たな環境での挑戦や辛苦を経て、スミトは農作業に従事しながら、演技やシナリオ作法を身につける日々を送ります。地方に住む女友達の「天」に手紙を書く中で、彼女の人生が変化し、結婚と妊娠という新たな幸せへの道に進んでいく様子が描かれています。

また、塾内では同期の「マーコさん」が退塾し、残されたスミトたちは新年を迎えるための準備や製作に忙しくなる中で、自分自身の成長や仲間との絆を深めていきます。スミトは、同い年の「けいこ」と地域の成人式に参加した後、演劇塾でも同様の儀式を迎えます。

ある晩、スミトは夢の中で、塾で共有した建物が消えているのに、自分が知っているはずのない別の建物が現れる不思議な光景を経験します。この夢には黒服の男が登場し、「俺はお前だ」と告げる場面があり、自身の存在意義についての深い問いを投げかけています。

卒業生たちとの別れや新しい一期生の訪れを間近に控え、夜の月明かりの中で同期生たちは気持ちを通わせ、これからの未来や塾の行く末について語り合います。最終的に、スミトはまだこの場に留まり、もう一年の生活を選択します。

評価

この作品は、芥川賞選考委員たちからさまざまな評価を受けています。川上弘美や吉田修一、堀江敏幸は、作品の深さや独自性を高く評価しながらも、同時に一部の批評家からは読み手に対する難解さや平凡さを指摘されることもありました。特に吉田修一は、青春の空回り感を見事に描写していると評価しています。

一方で、中立的な意見も多く、奥泉光は作品における細やかな描写を称賛しつつも、感じる自意識が気になると述べています。また、篤実な評価を受けている一方で高樹のぶ子や村上龍のような批評家からは物足りなさを指摘されることもあります。

まとめ

『しんせかい』は、役者志望のスミトが新しい環境で経験するさまざまな出来事を通して成長していく姿を描いた作品です。青春というテーマを深く掘り下げ、現実の厳しさや希望を描写することで、多くの読者に共感を呼んでいます。これからの文壇にもさらなる影響を与える作品となることでしょう。

もう一度検索