ソンクラーン

タイの祝祭、ソンクラーン：新年と水掛け祭りの狭間

ソンクラーンは、タイ王国の旧正月であり、現在では4月13日から15日までの3日間が祝日として定められています。かつてはチャントラカティ（タイの旧暦）の新年として、太陽が白羊宮に入る時期に当たることから、サンスクリット語で「移動・経路」を意味する'saṃkrānti'に由来すると言われています。

元々は、家族が集まり、仏像や年長者を清める宗教的な儀式が中心の新年行事でした。しかし、時代と共に水掛けが盛んになり、現在では「水掛け祭り」として知られるようになり、新年というよりも祭りの色彩が強くなっています。そのため、日本でも「タイの水掛け祭り」と呼ばれることもあります。ミャンマー、スリランカ、カンボジア、ラオスなど、周辺国にも同様の伝統行事があります。

ソンクラーン期間中は、多くのタイ人が故郷に帰省したり、家族旅行に出かけたりするため、国内の交通機関や観光地は大変混雑します。一方、商店やオフィスは閉まるため、普段賑やかな場所も静かになります。

伝統的なソンクラーンの行事は、仏像や仏塔に水をかけて清めたり、家族の年長者の手に水を掛けて敬意を表したりすることです。家の大掃除を行う家庭もあります。しかし、近年では、特に若者の間で、見ず知らずの人にも水をかけ合う、無礼講の水掛け祭りへと変質しています。水鉄砲やドラム缶、ホース、さらにはトラックに積んだ大量の水を用いた派手な水掛け合戦が、各地で行われます。チェンマイでは特に大規模な水掛けが行われることで知られています。メントール入りのベビーパウダーを溶かした水を掛けることも、冷却効果を高めるために行われています。

一方で、この無秩序な水掛け祭りによって、飲酒運転の増加や、走行中の車両への水かけによる交通事故など、多くの問題も発生しています。政府は、ソンクラーン期間中（特に4月11～17日）に飲酒運転の取り締まりを強化し、ドライバーには安全運転を呼びかけていますが、依然として事故は後を絶ちません。水かけ祭りへの参加者にも節度ある行動を呼びかけていますが、効果は限定的です。

日本でも、2011年から代々木公園で「ソンクランフェスティバル」が開催されています。これは、タイの文化全般を紹介するイベントで、駐日タイ王国大使館が主催する「タイ・フェスティバル」の一部として行われています。ただし、開催時期は必ずしもタイ本国のソンクラーンと一致するとは限りません。

ソンクラーンは、タイの伝統と近代の葛藤、そして宗教行事と祭りの狭間にある、複雑な側面を持つ祝祭です。2023年にはユネスコ無形文化遺産に登録され、その文化的価値が改めて世界に認められました。ソンクラーンは、タイの人々の生活に深く根付いた、重要な文化遺産であると言えます。

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