トラットリア

トラットリアとは

トラットリア（Trattoria）は、イタリアにおけるレストランの分類の一つであり、私たちの食卓に最も身近な存在と言えるでしょう。日本ではしばしば、「大衆的な雰囲気を持つ、家庭料理を提供するレストラン」として紹介されます。

その特徴

トラットリアには法的な定義があるわけではありませんが、一般的にいくつかの共通した特徴が見られます。

価格帯: 比較的リーズナブルな価格で食事を提供しています。
雰囲気: 堅苦しさがなく、リラックスして食事を楽しめる家庭的な雰囲気です。
ドレスコード: 基本的に服装に厳しいルールはありません。
規模: 店舗の規模は小さめであることが多いです。

高級店として知られるリストランテが、前菜からデザートまでのコース料理を主体とするのに対し、トラットリアでは、アンティパストや飲み物以外に、プリモ（第一皿）またはセコンド（第二皿）といったメインとなる一品を選んで気軽に楽しむのが一般的です。また、居酒屋のようにアルコールと軽いおつまみが中心となるオステリアとも異なります。

ただし、これらの特徴はあくまで一般的な傾向であり、例外も存在します。オーナーの意向によっては、リストランテのような洗練されたサービスを提供したり、コース料理を充実させたり、ドレスコードを設けているトラットリアもゼロではありません。お店の雰囲気やサービスレベルを判断する一つの目安としては、レストランのマネージャーとウェイター・ウェイトレスの役割が明確に分かれ、給仕スタッフがジャケットを着用しているような場合は、客側もそれに合わせたやや改まった服装が求められることが多いようです。

イタリア国内を旅すると、最も頻繁に目にすることができる飲食店こそが、このトラットリアだと言われています。

料理について

イタリア料理のフルコースは通常9品で構成されますが、トラットリアではそれらが省略されたり、いくつかの品がまとめられて提供されることが多く、より自由に注文できます。トラットリアでよく見られる料理のカテゴリーは以下の通りです。

アンティパスト（Antipasto）: 食事の始まりを飾る一皿で、「前菜」にあたります。その後に続くメイン料理の邪魔をしないよう、軽めのものが多いです。冷たい前菜（Antipasto Freddo）が定番ですが、温かい前菜（Antipasto Caldo）や、数種類の前菜を盛り合わせたアンティパスト・ミスト（Antipasto Misto）もあります。

プリモ・ピアット（Primo Piatto）: いわゆる「第一皿」。パスタ料理やリゾット、ピッツァなどが提供されます。季節の野菜や豆を使った具沢山のスープもこのカテゴリーに含まれます。

セコンド・ピアット（Secondo Piatto）: いわゆる「第二皿」、メインディッシュにあたります。主に魚料理か肉料理のどちらか一方が提供されることが多いですが、両方の選択肢を用意しているお店もあります。

コントルノ（Contorno）: プリモやセコンドに添える「付け合わせ」の野菜料理です。ほうれん草のソテーやインゲン豆の蒸し料理などが一般的です。イタリアのメイン料理にはあまり野菜が使われないため、野菜を摂りたい場合に別に注文します。これは必須ではなく、省略することも可能です。

* ドルチェ（Dolce）: 食事の締めくくりとなる「デザート」。ジェラート、パンナコッタ、ティラミスといった甘いドルチェが一般的ですが、新鮮なフルーツが提供されることもあります。

名称の起源

「トラットリア」という名称は、フランス語の「トレトゥール（traiteurs）」という言葉に由来しています。トレトゥールとは、日によって異なる料理を提供する仕出し屋や定食屋のような存在でした。当時のフランスでは、豚肉料理専門のシャルキュティエやロースト料理専門のロティスエールなど、提供できる料理の種類によって飲食店のギルドが異なっており、トレトゥールはこれらと明確に区別されていました。

トレトゥールでは、「ターブルドット（table d'Hote）」と呼ばれる独特の形式が見られました。これは、大きなテーブルを客が囲み、店の主人が作った料理が大皿に盛られて運ばれてきて、それを客自身が各自で取り分けるという、現在のビュッフェスタイルや大皿シェアスタイルの原型とも言える形式でした。

このような歴史的背景を持つトラットリアは、現代においても、イタリアの人々の日常の食を支える、暖かく居心地の良い空間として存在しています。

もう一度検索