ハリケーン作戦

イギリス初の核実験：ハリケーン作戦

1952年10月3日、イギリスは世界に衝撃を与える出来事を起こしました。それは、イギリス初の核実験、「ハリケーン作戦」の実施です。西オーストラリア沖のモンテベロ諸島、トリムイユ島沖の海上で、イギリスは自らの核兵器開発の成果を、世界に示すこととなったのです。

長崎型原爆を改良

ハリケーン作戦で使用された核兵器は、プルトニウム爆縮型でした。その設計は、広島に投下された原子爆弾とは異なり、長崎に投下された「ファットマン」とほぼ同じものでした。しかし、改良も加えられていました。プルトニウムの中心核（ピット）の周囲に空気層を設ける設計変更です。この変更は、爆弾の威力を増大させる効果があると期待されましたが、同時に、安全対策としての側面も持っていました。空気層を設けることで、不慮の臨界事故の危険性を低減することが狙いだったのです。

核物質としては、イギリス国内のウィンズケール（現セラフィールド）で生産されたプルトニウムが主に使用されました。しかし、生産が急がれたため、放射（irradiation）の時間を十分に確保できず、わずかながらプルトニウム240が含まれていました。そのため、カナダから供給されたプルトニウムも一部使用されています。ウィンズケールでの生産は、核兵器製造の最終期限である1952年8月1日に間に合わなかったことが、その理由の一つです。

海上での爆発実験

当時、イギリスは核爆弾が船舶によって密輸され、港湾施設で爆発させられることを、大きな脅威と捉えていました。ハリケーン作戦では、この脅威への対策として、核実験装置を艦船内に設置したまま爆発させるという、極めて大胆な方法が採用されました。

実験に使用されたのは、HMSプリムという1,370トンのフリゲート艦でした。この軍艦は、トリムイユ島沖350m、水深12mの地点に錨泊し、艦内において核爆発が引き起こされました。爆発は水線下2.7mで発生し、海底には深さ6m、直径300mのクレーターが形成されました。プリムは瞬時に蒸発し、わずかな高温の破片がトリムイユ島に降り注ぎ、植物に引火しました。発生した原子雲は、逆転層の影響を受け、通常のキノコ雲とは異なり、4,572mの高さまでしか上昇しませんでした。

作戦の結果とその後

ハリケーン作戦は、イギリスにとって初の核実験であり、その成功は、同国の核開発における大きな一歩となりました。しかし、その一方で、核実験に伴う環境への影響や、核拡散への懸念も同時に生じました。この実験は、冷戦構造下における国際情勢にも大きな影響を与え、後の核軍拡競争の一端を担うこととなりました。この作戦は、技術的な成功だけでなく、政治的・外交的にも大きな意味を持つ出来事であったと言えるでしょう。

作戦の要目

時刻：1952年10月3日00時00分（GMT）（西オーストラリア時刻同日08時00分）
場所：モンテベロ諸島（西オーストラリア）トリムイユ島沖（南緯20度25分、東経115度33分）
実験形式：船舶による水中爆発
爆発高度：マイナス2.7m
* 威力：25キロトン以上

ハリケーン作戦は、イギリスの核開発の歴史において、重要な転換点となっただけでなく、現代社会における核兵器開発と国際情勢を考える上でも、重要な意味を持つ出来事と言えるでしょう。

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