パーマカルチャー

パーマカルチャーとは

パーマカルチャー（Permaculture）は、エコロジカルデザインと環境デザインの分野で用いられる用語であり、自然界の生態系を模倣した持続可能なシステムを構築するための総合的なデザイン概念です。この概念は、持続可能な建築や自己維持型の農業システムを取り入れ、社会や暮らし全体を変革することを目指しています。パーマカルチャーは、完結自給型の農業開発とも捉えられます。

パーマカルチャーの定義

パーマカルチャーという言葉は、1970年代にオーストラリアのタスマニア島でデビッド・ホルムグレンとビル・モリソンによって作られました。彼らによると、当初は「パーマネント（permanent）」と「アグリカルチャー（agriculture）」を組み合わせた「永続する農業」という意味が込められていました。彼らの共著『パーマカルチャー・ワン』（1978年）では、「動物や多年生の植物、そして自己更新する植物を人間が利用する目的で組み合わせた、常に進化するシステム」と定義されています。

パーマネント・アグリカルチャーという概念自体は、モリソンとホルムグレンのオリジナルではありません。アメリカの土壌学者FHキングが、日本、中国、朝鮮半島の視察記録をまとめた『東アジア四千年の永続農業』の副題にも「永続農業」という言葉が使われていました。また、J・ラッセル・スミスの著書『トゥリー・クロップス』の副題も同様でした。これらの事実は、20世紀初頭にはすでに「永続的な農業」への関心が高まっていたことを示しています。

パーマカルチャーの初期の概念は、動物や多年生の植物を組み合わせ、その特性を利用することに重点が置かれていました。また、一年生の野菜を野生化させ、多年生化することも基本的な考え方でした。これは、一年生の野菜や穀物に依存する現代のライフスタイルや、単一作物栽培を指向する農業への批判であり、別の生き方や社会のあり方を提案するものでした。「永続的な農業」を意味していたパーマカルチャーは、提唱から30年以上が経過し、「永続的な文化」を意味するという解釈が広がりつつあります。デビッド・ホルムグレンは著書『パーマカルチャー：農的暮らしを実現するための12の原理』で、パーマカルチャーを「食物や繊維、エネルギーなど人間の必要を満たすため、自然に見られるパターンや関係を真似し、風土を意識的にデザインすること」と定義しています。彼は、パーマカルチャーが「下降の時代の文化」として、不確実な時代にこそその価値を発揮すると述べています。

パーマカルチャーの3つの倫理

パーマカルチャーは、以下の3つの倫理を基盤としています。これらの倫理は、宗教や共同体の倫理に関する研究から抽出されたとされています。

地球に配慮する (Care for the earth)：全ての生命システムが持続し、繁栄できる状態を維持すること。地球の健康なしに人間の繁栄はありえないという、最も基本的な倫理です。
人々に配慮する (Care for the people)：人々の存続に必要な資源を供給すること。
* 余剰は分かち合い、消費と再生産には限度を設けよ (Set limits to consumption and reproduction, and redistribute surplus)：健康な自然システムのように、互いに必要なものを供給し合うことで、資源を確保し、持続可能な社会を築くことができます。

パーマカルチャーの原理

パーマカルチャーの原理は、システム思考やデザイン思考と呼ばれる世界観に基づいています。自然と産業化以前の持続可能な社会を観察することで、普遍的な原理を抽出できるという考え方です。これらの原理は、生態学や環境地理学、民族生物学などから影響を受けています。

パーマカルチャーの原理は、簡潔な文章やスローガンで表され、様々な選択肢を検討する際のチェックリストとして利用できます。原理は万国共通ですが、具体的な適用方法は場所や状況によって大きく異なります。ホルムグレンは、「パーマカルチャーの花」という概念で、個人、経済、社会、政治の再編成にもこれらの原理が有効であると述べています。

パーマカルチャーのデザイン原理は、当初から重要視されていたわけではありませんでした。1991年にモリソンが初めてデザイン原理を提示し、その後、広く使われるようになりました。ホルムグレンは著書『パーマカルチャー』で、以下の12のデザイン原理を掲げています。

1. まず観察、それから相互作用：自然を注意深く観察し、相互作用を理解する。
2. エネルギーを獲得し、蓄える：資源を効率的に利用し、蓄える。
3. 収穫せよ：得られたものを最大限に活用する。
4. 自律とフィードバックの活用：システムを自己調整させ、フィードバックを活用する。
5. 再生可能な資源やサービスの利用と評価：自然の資源を大切にし、持続可能なサービスを評価する。
6. 無駄を出すな：資源の循環を促し、無駄をなくす。
7. デザイン――パターンから詳細へ：全体像を捉え、詳細をデザインする。
8. 分離よりも統合：要素を組み合わせ、相乗効果を生む。
9. ゆっくり、小さな解決が一番：小さなステップで、着実に進む。
10. 多様性を利用し、尊ぶ：生態系の多様性を重視し、活用する。
11. 接点の活用と辺境の価値：境界領域の相互作用を重視する。
12. 変化には創造的に対応して利用する：変化をチャンスと捉え、創造的に対応する。

ホルムグレンは、これらの原理を盲目的に捉えることを戒め、常に見直しが必要であると述べています。

日本におけるパーマカルチャー

日本におけるパーマカルチャー運動は、1993年にモリソンの著書『パーマカルチャー』が翻訳出版されたことから始まりました。それ以前にも紹介はありましたが、注目されることはありませんでした。1994年には、オーストラリアのパーマカルチャー教師が日本でワークショップを開催し、翌年には日本初のパーマカルチャーデザインコース（PDC）が開かれました。1996年にはパーマカルチャー・センター・ジャパンが設立され、1997年には創始者のビル・モリソンが来日し、講演やワークショップを行いました。その後、2001年にパーマカルチャーネットワーク九州、2009年にパーマカルチャー関西、2011年にはパーマカルチャー中部が設立され、各地で活動が展開されています。2003年には初の全国大会が開催され、2012年にはホルムグレンの著書が邦訳出版されました。これらの活動を通じて、日本でもパーマカルチャーの理念が浸透しつつあります。


パーマカルチャーは、単なる農業技術ではなく、持続可能な社会と暮らしをデザインするための包括的な概念です。自然の力を借り、資源を循環させ、多様性を尊重する生き方は、現代社会が抱える多くの課題を解決するヒントになるかもしれません。

もう一度検索