ビートのディシプリン

ビートのディシプリン：ブギーポップシリーズを彩る、合成人間の試練の物語

上遠野浩平氏による小説『ビートのディシプリン』は、人気シリーズ『ブギーポップは笑わない』のスピンオフ作品として2000年から2005年にかけて電撃hpで連載され、その後電撃文庫より全4巻で刊行されました。本作は、統和機構に所属する合成人間、ピート・ビートが中心人物。彼は機構最強と謳われるMPLS能力者、フォルテッシモから、謎の存在「カーメン」の調査を依頼されます。この依頼をきっかけに、ビートは自身の能力と経験をフルに活用し、数々の困難な試練に立ち向かうことになります。

物語の核となる「カーメン」は、多くの合成人間にとって特別な意味を持つ存在です。しかしながら、カーメンを理解していない存在もいるという設定が物語に奥行きを与えています。「カーメン」は作中で「概念」、「暗黒の先にある夢と希望」など、多様な表現で示され、その正体は謎に包まれています。さらに「スリー・オブ・パーフェクト・ペアー」という別名も持ち、「現在・過去・未来」に常に存在する「自分自身」と「それを取り巻く全て」を表しているとも解釈されています。この曖昧で多様な解釈を許容する表現が、物語全体にミステリアスな雰囲気を漂わせています。

この作品は、ブギーポップシリーズと密接な関係があり、上遠野浩平氏自身もインタビューで「ブギーポップシリーズを終える上で必要な作品の一つ」と発言しています。時間軸や登場人物の繋がりにおいて、『ヴァルプルギスの後悔』と特に深い関係があり、『ビートのディシプリン』最終巻では、『ヴァルプルギスの後悔』の序章とも言える内容が描かれています。両作品は、シリーズ全体の理解を深める上で欠かせない重要な役割を担っています。

主要登場人物

ピート・ビート / 世良稔

統和機構所属の合成人間。掌で空気の振動を感知する能力＜NSU＞を持ち、相手の心臓の鼓動を把握することで相手の行動を抑制したり、自身の身体能力を限界まで引き上げる＜超加速の鼓動（モルト・ヴィヴァーチェ）＞という特殊能力も駆使します。戦闘用合成人間ではありませんが、その能力と経験から、高い戦闘能力を発揮します。彼は自身の限界を探求し続け、研鑽を積むという、多くの合成人間が行わない努力を続けています。フォルテッシモからは対等に渡り合う存在として期待され、統和機構の中枢からも注目されている一方で、常に激しい試練に晒されています。味覚が鈍感で、性格は几帳面とは言い難い大雑把な面も持ち合わせています。しかし、かつて敵対していた相手に対しても、確執が解ければ助けようとする優しさも持ち合わせています。

浅倉朝子

ビートのクラスメイト。明るく面倒見の良い性格で、他人の心の内や物事の本質を直感的に理解する能力＜モーニング・グローリー＞を持っています。この能力は戦闘において敵の攻撃を予測するなど、高い応用性を発揮します。彼女の能力は、周囲からはその強大さと、説明能力のアンバランスさが指摘されていますが、霧間凪からは高く評価されています。彼女はビートと完全に同一の鼓動を持ち、NSUの効果をビートと同じように受け、同じ身体能力を発揮することが可能です。ビートと接触することで、直感的な意思疎通も可能となります。朝子の能力とビートの能力の連携は、フォルテッシモをも翻弄するほどの高い戦闘能力を生み出します。

ザ・ミンサー

思考の中で言語化された部分を手のひらから読み取る能力を持つ少女。人の心を断片的にしか読み取れないことを自嘲して「ミンサー」と名乗っています。ビートとモ・マーダーと同居していた時期があり、母親や姉のような存在として彼らを支えていました。かつては次期中枢候補でもありましたが、「諦め」を体現する存在となり、ビートに未来を託して亡くなりました。

ラウンダバウト / 奈良崎克巳

九連内朱巳に仕える合成人間。ビートと似た生体波動感知能力を持ち、対象の「隙」を感知します。男性のような容姿をしていますが、女性であり、朱巳の命令でビートを探っていました。一度対決しますが敗れ、その後はビートと協力するようになります。フォルテッシモとモータル・ジムの攻撃からビートを庇い、重傷を負います。

その他登場人物

ジィド、バーゲン・ワーゲン、モータル・ジム、ダイアモンズ、アルケスティス、リキ・ティキ・タビなど、個性豊かな登場人物が物語を彩ります。これらのキャラクターは、それぞれ独自の能力や背景を持ち、ビートの運命に様々な影響を与えます。また、ブギーポップシリーズからの登場人物も多く登場し、シリーズファンも楽しめる作品となっています。

作品構成

『ビートのディシプリン』は、4つのサイド（Exile、Fracture、Providence、Indiscipline）に分けられ、それぞれ複数のエピソードで構成されています。各エピソードのタイトルには、イギリスのプログレッシブ・ロックバンド、キング・クリムゾンの楽曲やアルバムタイトルが用いられており、音楽ファンにも興味深い要素となっています。

まとめ

『ビートのディシプリン』は、謎めいた存在「カーメン」を巡る合成人間ピート・ビートの活躍を描いた、ミステリアスでスリリングな物語です。ブギーポップシリーズとの深い繋がり、個性豊かな登場人物、そしてキング・クリムゾンの音楽的要素が融合した、上遠野浩平氏ならではの独創的な作品となっています。シリーズ全体を理解するためにも、必読の一冊と言えるでしょう。

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