フィルムは生きている

アニメーションへの情熱と挫折、そして再生の物語『フィルムは生きている』

手塚治虫の漫画作品『フィルムは生きている』（1958～1959年連載）は、アニメーション映画制作に人生を捧げる若者たちの生き様を描いた青春ドラマです。学習研究社の雑誌『中学一年コース』と『中学二年コース』に掲載され、アニメーション制作という当時まだ一般的ではなかった世界を、リアルに、そして情熱的に描き出しています。

物語の中心人物は、地方から上京してきた青年・宮本武蔵。彼はアニメーション映画制作を夢見ていますが、才能を認められず、街頭で似顔絵を描いて生活しています。武蔵はアニメ制作会社への入社を目指しますが、ベテランアニメ作家・壇末魔から才能を否定され、夢を閉ざされてしまいます。

そんな武蔵は、同じくアニメーション映画制作を目指す佐々木小次郎と出会います。二人は意気投合し、共同で作品制作を始めますが、主人公キャラクターをめぐる意見の相違から対立、そして決裂してしまいます。

武蔵は一人でアニメーション映画制作に取り組み、5万枚もの原画を完成させます。しかし、その直後、トラブルに巻き込まれ、自宅を焼失するという不幸に見舞われます。

この事件がきっかけで、人気漫画雑誌『少年パック』からの連載依頼を受け、漫画家として成功を収めます。しかし、その成功は、武蔵がアニメーション映画という夢を諦めたことへの虚しさ、そして心の空白を表すものだと、漫画家の宍戸梅軒から指摘されます。

一方、小次郎は財力のある家庭環境を背景に、アニメーション映画制作を実現させます。武蔵は視力の低下という新たな試練に直面しますが、壇末魔が残したメッセージに励まされ、再びアニメーション映画制作に挑むことを決意します。

そして、武蔵と小次郎は、それぞれの作品を同時上映し、観客投票で勝敗を決する対決を行います。作品は武蔵の作品が僅かに上回り、小次郎は武蔵の完全失明を知り、敗北を認め、共に武蔵の作品の上映館へと向かうのでした。

主要登場人物

宮本武蔵: アニメーション映画監督を夢見る主人公。才能に恵まれながらも、様々な困難に直面する。
佐々木小次郎: 武蔵のライバル。裕福な家庭環境に恵まれ、アニメーション映画制作を実現させる。
壇末魔: ベテランアニメ作家。武蔵の才能を見抜くものの、業界の厳しさに絶望する。
吉岡清十郎、吉岡伝七郎: 人気漫画家兄弟。武蔵の才能を見抜き、彼を応援する。
本位田通: ヤクザの組長の娘。武蔵を助ける。
盤台庄助: 漫画雑誌『少年パック』の編集長。武蔵の才能を見出す。
宍戸梅軒: 漫画家。武蔵の心の内を見抜く。
佐々木高綱: 小次郎の父。財力を利用して小次郎の映画制作を支援する。
* アオ: 武蔵の愛馬。武蔵の心の支えとなる存在。

アニメーションへの深い洞察

『フィルムは生きている』は、単なる青春物語にとどまりません。手塚治虫自身のアニメーションへの情熱、そしてアニメーション制作の現場における困難や課題が、物語全体に織り込まれています。

作品中には、アニメーションの歴史や、日本におけるアニメーション制作の現状に関する解説も含まれており、当時のアニメーション業界の状況を知る上で貴重な資料となっています。また、武蔵がアニメーション制作に携わる中で直面する様々な困難、人材育成の苦労なども描かれており、アニメーション制作の複雑さと奥深さを浮き彫りにしています。

『フィルムは生きている』は、夢を追いかける若者たちの姿を通して、アニメーションへの情熱、そして創作活動における困難と喜びを力強く描いた作品です。手塚治虫のアニメーションへの情熱と、その深い洞察が感じられる、まさに彼の代表作と言えるでしょう。

出版情報

『フィルムは生きている』は、複数の出版社から単行本として出版されています。いくつかの版が存在し、それぞれ異なる装丁や収録内容となっているため、コレクターの間でも人気が高い作品です。作品に対する関心の高さを示す証と言えるでしょう。

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