ベッコウバチ

ベッコウバチ科 (Pompilidae)

ハチ目（膜翅目）に分類される昆虫の一群で、かつてベッコウバチ科と呼ばれていましたが、2000年以降はクモバチ科という名称に改められました。この科に属するハチの多くは典型的な狩りバチであり、特にメスは、自らの幼虫の糧とするため、メスのクモを専門に狩るという非常にユニークな生態を持っています。

生態：驚異のクモ狩り

クモバチのメスは、獲物となるクモを見つけると襲いかかり、その針で毒液を注入して麻痺させます。これは殺すのではなく、幼虫が孵化するまで新鮮な状態を保つための「麻酔」です。麻酔されたクモは動けなくなりますが、報告によれば最長で約2ヶ月間生存し続けることがあるといいます。ハチは麻痺させたクモを巣穴に引きずり込み、その体表に一つだけ卵を産み付けます。

孵化したクモバチの幼虫は、まさにその麻痺したクモ一匹だけを食べて成長します。幼虫にとって、親バチが用意したクモは成長過程の全ての栄養源となるのです。

巣作りと狩りの順序は種によって異なり、獲物を捕らえてから巣穴を掘るタイプと、事前に巣を用意しておいてから狩りに出かけるタイプが知られています。

また、ヒメクモバチの仲間は、泥を使って瓶のような独特な形の巣を構築します。この仲間には、捕らえたクモを巣に運び込む前に、クモの脚を切り落とすという興味深い習性を持つものがいます。これは、狭い巣穴への搬入を容易にするためと考えられています。

形態的特徴

クモバチ科のハチは、一般的に細長い体形をしています。識別の特徴として、中胸側板の中央部に斜めの溝が見られること、そして比較的長い触角を持つことが挙げられます。

日本のクモバチ科

日本列島には、このクモバチ科のハチが100種以上生息していることが確認されています。

代表的な種

ベッコウクモバチ (Cyphononyx fulvognathus)

かつて種としての「ベッコウバチ」と呼ばれていましたが、科名の変更に合わせて「ベッコウクモバチ」と改称されました（以前 Cyphononyx dorsalis とされていた学名は Cyphononyx fulvognathus に修正されています）。体長は17mmから25mm程度と比較的大型です。日本では本州中部以南を中心に全土で見られますが、台湾、東南アジア、インドといったアジア各地にも広く分布しています。

オオモンクロクモバチ (Anplius samariensis)

体長は11mmから21mmで、北海道から九州まで日本各地に分布しています。腹部に目立つ橙褐色の斑紋があるのが特徴です。

* ツマアカクモバチ (Tachypomplius analis)

体長は11mmから20mm程度で、本州、九州、四国、南西諸島に生息します。その名の通り、腹部の先端（尻部）が赤いのが特徴です。大型の徘徊性のクモであるアシダカグモなどを狩ることで知られています。

海外には、非常に大型になることで知られるオオベッコウバチなどが生息しており、その多様性は世界各地で見られます。

クモバチ科は、その独特な繁殖生態と、クモという特定の獲物に特化した狩りの技術において、昆虫の世界でも特異な存在といえます。

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