ホンダ・ワルキューレ

ホンダ・ワルキューレ：伝説のオートバイシリーズの歴史

ホンダが製造販売した大型オートバイ「ワルキューレ」シリーズは、その圧倒的な存在感と個性的なデザインで多くのライダーを魅了しました。本稿では、1997年から2015年にかけて製造された3つのモデル、Valkyrie（SC34）、Valkyrie Rune（SC53）、Gold Wing Valkyrie（SC68）について、開発経緯から販売状況、そしてリコール情報まで、詳細にわたって解説します。

Valkyrie（SC34）：ファクトリーカスタムの旗艦

Shadow VLX（PC21）の米国市場での成功を受け、ホンダは「SPIRIT OF THE PHOENIX」というデザインコンセプトに基づいた新たなオートバイ群の開発に着手しました。その中心となったのが、Valkyrie（SC34）です。

開発は1990年から開始され、ホンダ技術研究所とホンダ・アール・アンド・ディ・ノース・アメリカ・インコーポレーテッド（HRA）が共同で取り組んだ結果、Gold Wing（SC22）の6気筒エンジンを搭載した、独特のスタイルを持つオートバイが誕生しました。Gold Wingのエンジンをベースとしながらも、各気筒に専用のキャブレターを採用し、高回転高出力特性を目指したチューニングが施されました。さらに、Gold Wingとは異なる独自の排気サウンドを奏でる排気システムも開発されました。

1996年春に発表されたValkyrie（SC34）は、米国オハイオ州メアリズビル工場で製造され、同年4月11日に最初の70台が生産ラインを離れました。その後、2003年までに48,420台が製造され、日本、欧州、豪州など世界各国に輸出されました。しかし、日本などへの輸出台数は総生産台数のわずか13％程度にとどまりました。

様々なバリエーションが展開され、米国ではValkyrie Tourer（GL1500CT）が追加販売されました。日本市場では「ワルキューレ」の名称で販売され、1997年にはツートンカラーモデルが追加されました。また、1999年にはフェアリングやパニアケースを装備したValkyrie Interstate（GL1500CF）が米国で発売されています。年式による細かな仕様変更やカラーバリエーションの変更などが行われ、2003年に生産終了しました。

なお、製造過程において方向指示器の脱落の可能性を示唆するリコールが1996年に発生しています。

Valkyrie Rune（SC53）：挑戦の結晶

Gold Wing（SC47）に搭載された1800ccエンジンが発表された際、多くの人がValkyrieへの搭載を予想していました。しかし、アメリカンホンダモーターカンパニー・インコーポレーテッド（AH）の副社長レイ・ブランクは、3万ドルを超えるハーレーダビッドソンをベースにしたカスタムバイク市場に着目し、ホンダ独自の技術による真のファクトリーカスタムの開発を構想しました。

その結果、HRAのマーティン・マンチェスターが制作した実物大模型3種類から、ネオレトロスタイルのコンセプトモデル（T2）が量産モデルとして選定されました。しかし、この模型をそのまま量産するのは技術的に困難が伴いました。特に冷却システム、マフラー、そして乗車姿勢の確保が課題となりました。ホンダ技術研究所（HRD）とHRAは試行錯誤を重ね、模型のデザインをほぼ維持したままこれらの課題を克服することに成功しました。

6年に及ぶ開発期間を経て、2004年にValkyrie Rune（SC53）が発売されました。価格はValkyrie（SC34）の約2倍となる27,000ドルに設定され、製造コストは1台あたり10万ドルに上ったと推定されています。販売は北米市場に限定され、製造台数は3,940台に留まり、AHは大きな損失を被ったと伝えられています。

Gold Wing Valkyrie（SC68）：新たな解釈

2013年の東京モーターショーで初公開されたGold Wing Valkyrie（SC68）は、「GOLDWING F6C」の名称で発表されました。Gold Wing F6B（SC68）と共に、Gold Wingシリーズのラインナップに加わったモデルです。Gold Wingシリーズと共通のプラットフォームをベースとしつつ、より軽量でスポーティな走行を実現しました。特徴的なのは、前後輪の大径化です。

2014年から2015年にかけて製造され、米国、カナダ、欧州、ニュージーランド、日本などで販売されました。ABS（アンチロック・ブレーキシステム）搭載モデルも用意され、日本では「ゴールドウイング F6C」として販売されました。

2018年と2021年には、騒音ラベルの不備や灯火装置の不具合を原因とするリコールが実施されています。

結論

ホンダ・ワルキューレシリーズは、各モデルが異なるコンセプトに基づいて開発され、それぞれの個性を持つオートバイとして歴史に刻まれています。その革新的なデザインと技術、そして大胆な挑戦は、オートバイ史において特筆すべき存在と言えるでしょう。また、日本のテレビドラマや映画への出演なども含め、その存在感は広く知られています。

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