ボツリヌス菌

ボツリヌス菌について

概要

ボツリヌス菌とは、学名Clostridium botulinumで知られる、クロストリジウム属の細菌であり、グラム陽性の大桿菌です。この菌は土壌や海底、湖沼に広く分布し、芽胞の形で生存しています。ボツリヌス菌にはAからGの7つの型があり、人間に影響を与えるのは主にA、B、E、F型です。特にA型とB型は、土壌中に芽胞の形で存在しており、C型とE型は水の中に見られるため、これらの型は様々な環境で見かけることができます。

名称の由来

「ボツリヌス」という名称はラテン語のbotulusに由来し、これは「腸詰め」や「ソーセージ」を意味します。19世紀のヨーロッパにおいて、ソーセージから起こる食中毒が多く報告されていたため、この名前が付けられました。ドイツの医師ユスティヌス・ケルナーは、ボツリヌス症を脂肪分に含まれる神経障害の原因物質によるものと考えました。その後、1896年にベルギーのエミール・ヴァン・エルメンゲムがこの菌と毒素を特定しました。

その結果、最初はBacillus botulinusとして命名されましたが、後にClostridium属に分類され、現在の名称となりました。ラテン語として、Clostridium botulinumは「ソーセージのクロストリジウム菌」という意味を持っています。

ボツリヌス毒素

ボツリヌス菌が生産するボツリヌス毒素は非常に強力であり、致死量は体重70kgの人間に対して約70μgとされています。これは1gで約14,300人分の致死量に相当し、青酸カリなど他の自然毒に比べても非常に危険です。

ボツリヌス症

ボツリヌス症は主に、ボツリヌス毒素を含む食品を摂取することによって引き起こされます。自然界では、Clostridium botulinumがよく見られ、稀にClostridium butyricumやClostridium baratiiも原因となることがあります。傷口感染によるボツリヌス症も存在しますが、その頻度は低いです。

特に注意が必要なのが乳児ボツリヌス症です。これは、腸内細菌が未発達の乳児がボツリヌス菌の芽胞を含む蜂蜜などを摂取することによって起こります。芽胞は高温に耐えるため、一般的な加熱調理では除去が難しいです。したがって、1歳未満の乳児には蜂蜜を与えないことが推奨されています。

症状

ボツリヌス毒素は筋肉に影響を与え、特に四肢の麻痺を引き起こします。重症の場合は呼吸筋が麻痺し、命に関わることもあります。そのほかにも、視覚の障害や構音障害、排尿障害などが現れることがありますが、発熱はあまり見られません。乳児ボツリヌス症では、便秘が初期症状で、その後全身の脱力が起こります。

予防と治療

ボツリヌス毒素は加熱によって不活化するため、食品は食べる直前に加熱することが重要です。特に、ボツリヌス菌の芽胞は高温に耐えるため、慎重な取り扱いが求められます。症状が現れた場合は、抗毒素がウマ血清から提供されることが一般的ですが、迅速な治療が必要とされます。一般的には、発症から24時間以内の投与が望ましいとされています。

さらに亜硝酸ナトリウムという添加物が、ハムやソーセージなどの食品に使われており、ボツリヌス菌の繁殖を防ぐ効果があります。

中毒例

日本では、特に北海道や東北地方での中毒事例が報告されています。1969年には宮崎県庁での食中毒事件があり、1974年、1984年には熊本県の食品による大規模中毒が確認されました。最近では、2017年に東京都で乳児ボツリヌス症による死亡例も発生しています。

おわりに

ボツリヌス菌は非常に危険な病原体であり、正しい理解と予防が不可欠です。感染症法に基づき、ボツリヌス菌やその毒素の取扱いに関する規制が設けられており、取り扱うには十分な注意が必要です。本菌についての知識を深め、適切な対策を行うことが、今後の安全につながるでしょう。

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