ヤクシニー

1984年6月21日、郷ひろみさんの51枚目のシングル「ヤクシニー」がリリースされました。この楽曲は、インド神話に登場するヤクシニーを題材にした、エキゾチックな雰囲気漂う一曲です。

ヤクシニーとは、古代インドの神話において「夜叉女」を意味する存在です。ヤクシャ（夜叉）と共に、古くからインドで信仰されてきました。ヤクシャは男性、ヤクシニーは女性の神とされています。これらの神々は、もともとは豊作や子孫繁栄をもたらす、人々にとってなくてはならない存在、いわば産土神（うぶすなのかみ）として崇められていました。しかし、時代と共にそのイメージは変化し、悪人を喰らう鬼神という恐ろしい存在へと変貌を遂げていきます。

しかしながら、郷ひろみさんの「ヤクシニー」において描かれるヤクシニーは、必ずしもそのような恐ろしい存在ではありません。むしろ、レコードジャケットにも表れているように、おだやかな表情をした、豊満で官能的な女神の姿をしています。この楽曲では、そのようなヤクシニーの神秘的な魅力と、郷ひろみさん自身の表現力が融合し、聴くものを魅了する独特の世界観が作り上げられています。

作詞は、数々のヒット曲を手がけた売野雅勇氏、作曲と編曲は井上大輔氏が担当しました。売野雅勇氏の巧みな詞の世界観と、井上大輔氏の洗練されたメロディーとアレンジによって、「ヤクシニー」は郷ひろみさんの音楽キャリアの中でも、特筆すべき一曲となっています。このシングルには、「ヤクシニー」の他に「八月のエトランゼ」が収録されており、両曲とも作詞は売野雅勇氏、作曲・編曲は井上大輔氏によって制作されました。

「ヤクシニー」は、インド神話を題材としていながらも、日本のポップミュージックの枠を超えた普遍的な魅力を持っています。インドの神秘的な雰囲気と、郷ひろみさんの個性的な歌声が織りなすハーモニーは、当時、多くのリスナーを惹きつけました。現在でも、その独特の世界観と高い音楽性から、多くのファンに愛され続けている一曲と言えるでしょう。この楽曲は、郷ひろみさんの幅広い音楽性と、その時代の音楽シーンを反映した重要な作品であり、日本の音楽史における一つの足跡として、その価値は今もなお輝き続けています。

「ヤクシニー」は、単なる楽曲を超えて、インド神話、そして郷ひろみさんの音楽性、そして1984年の音楽シーンという、様々な要素が複雑に絡み合い、一つの作品として完成しています。この楽曲を通じて、当時の社会状況や音楽シーンを想像し、改めてその魅力を再発見するのも、楽しみ方のひとつと言えるでしょう。

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