レッドアウト

レッドアウト：パイロットを襲う赤い視界

レッドアウトは、航空機パイロットが急激なマイナスG（頭部方向への強い加速度）を受けた際に発生する現象です。通常、血液は重力に従って身体の下部に集まりますが、強いマイナスGでは血液が頭部に集中し、眼球の血管に血液が充満します。このため、パイロットの視野が赤く染まって見えるのです。

これは、眼球内の毛細血管が拡張し、血液が充満することで起こります。単純に頭部に血液が集まるだけでは視覚的な変化は起こりませんが、眼球内の血管への血液集中は視界を赤く歪ませるのです。

レッドアウトは、プラスG（脚部方向への強い加速度）によって引き起こされるグレイアウト、ブラックアウト、G-LOC（G-induced loss of consciousness：G誘発意識喪失）とは対照的です。プラスGでは血液が下半身に集中し、脳への血流が不足することで視覚障害や意識喪失につながります。

航空機においては、機体構造上、機体上部を旋回中心とした旋回の方が旋回半径が小さくなるため、通常は機首上げによるプラスGの旋回が行われます。そのため、マイナスG、ひいてはレッドアウトを引き起こすような操縦は、緊急時や曲芸飛行など、特殊な状況下でのみ発生する可能性があります。頭を外側に傾けるような旋回（アウトサイドループなど）は、通常行われるものではありません。

レッドアウトの危険性は、ブラックアウトと比較して高いと言われています。人間は頭部の血管が非常に細いため、-3G程度のマイナスGで限界に達します。脳への血流不足は、判断力や操縦能力の低下を招き、事故につながる危険性が高いためです。

レッドアウトの症状は、視野が赤くなることに留まりません。脳内での血流量の偏りは、頭痛やめまい、目の前がキラキラと見えるなどの症状を引き起こす可能性もあります。これらの症状は、パイロットの健康状態や操縦能力に悪影響を与え、安全な飛行を阻害する要因となります。

旅客機では快適性が重視されるため、レッドアウトが発生するような激しい操縦は通常行われません。しかし、戦闘機パイロットなど、高度な操縦技術を要する場面では、レッドアウトのリスクを常に考慮する必要があります。

レッドアウトを理解し、その発生メカニズムや危険性を把握することで、パイロットは安全な飛行を実現するための適切な対応を講じることが可能になります。そして、緊急時における迅速な判断や適切な行動は、パイロット自身の生命とミッションの成功に直結するのです。

関連用語

グレイアウト：視界が灰色がかってくる現象
ブラックアウト：視界が完全に黒くなる現象
ホワイトアウト：雪や雲で視界が白くなる現象
ブラウンアウト：砂漠の砂塵で視界が褐色になる現象
* 3D酔い：三次元空間での視覚情報と身体感覚のずれによって起こる乗り物酔い

もう一度検索