一身上の都合

一身上の都合（いっしんじょうのつごう）

「一身上の都合」とは、主に労働者が自らの個人的な事情によって勤務先を退職する際に用いられる、一般的な定型句です。この言葉は、退職願や退職届、あるいは転職活動における履歴書や職務経歴書で、前職の退職理由を簡潔に表現する際に使用されます。

使用される場面と背景

労働者が会社を辞める理由は多岐にわたりますが、「一身上の都合」という言葉は、以下のような個人的な事情に基づく退職の場合に主に使われます。

健康上の理由: 病気療養や怪我など、自身の体調を整える必要がある場合。
家庭の事情: 結婚、配偶者の転勤に伴う引越し、育児、家族の介護など、家庭の状況が変化した場合。
自己実現・キャリアチェンジ: より自身の能力を活かせる職場で働きたい、新たな分野に挑戦したい、スキルアップを目指したいといった、自身のキャリアに関する志向の変化。
その他: 実家に戻って家業を継ぐ、生まれ故郷での就職を希望するなど。

これらの個人的な理由について、退職願などに詳細な内容を具体的に記載することは必須ではありません。多くの企業では、退職願に「一身上の都合により」と簡潔に記載することを慣例として受け入れています。これは、労働者側のプライバシーに配慮するとともに、手続きを円滑に進めるためでもあります。

また、労働法上、労働者が会社に対して退職の具体的な理由を詳細に説明する義務は課されていません。このため、「一身上の都合」という表現を用いることで、法的な問題なく退職の意思を伝えることができます。

転職活動の際、履歴書や職務経歴書に前職の退職理由を記載する場合にも、「一身上の都合により退職」とすることが一般的です。面接などで具体的な理由を尋ねられる可能性はありますが、どのような理由であったかを簡潔かつ前向きに説明することが求められます。

会社都合退職との違い

「一身上の都合」は、あくまで労働者自身の意思や個人的な事情に基づく退職（自己都合退職）の場合に限定して使用される表現です。

会社の都合による退職、例えば、会社の業績悪化に伴うリストラ（整理解雇）や、事業所の閉鎖、一方的な労働条件の不利益変更を理由とする退職など（会社都合退職）の場合は、「一身上の都合により」と記載することはできません。

自己都合退職と会社都合退職は、失業給付の受給開始時期や給付日数、さらには転職活動における企業の評価など、様々な面で区別されます。そのため、自身の退職がどちらに該当するのかを正しく理解し、適切な表現を用いることが非常に重要です。会社都合退職であるにもかかわらず「一身上の都合」としてしまうと、自身の権利を損なう可能性もあるため注意が必要です。

このように、「一身上の都合」は、日本の雇用慣行において、労働者が自身の判断で会社を辞める際の理由を表現するための、広く認知された言葉として定着しています。

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