七色いんこ

七色いんこ：演劇と泥棒が織りなす、手塚治虫ワールド

『七色いんこ』は、手塚治虫が1981年から1982年にかけて『週刊少年チャンピオン』に連載した漫画作品です。全47話からなるこの作品は、天才的な演技力を持つ代役俳優でありながら、裏では裕福な観客から金品を盗む役者泥棒、七色いんこの活躍を描いています。

多彩な舞台と登場人物

『ブラック・ジャック』のような1話完結形式で、毎回異なる舞台や登場人物が登場します。実在の演劇作品を多く題材にしており、手塚治虫の演劇や映画への造詣の深さが伺えます。多くのエピソードは映画化されている演劇が元になっていることも特徴です。

七色いんこは、老若男女、どんな役でもこなす名優です。青緑色のカツラと赤いサングラスがトレードマーク。変装と声色の技術は超一流で、観客だけでなく、有名演出家や一流女優をも魅了するほどの演技力を誇ります。しかし、その華麗な演技の裏には、泥棒という裏の顔がありました。舞台では出演料を受け取らず、代わりに劇場を訪れた名士から宝石などの貴重品を盗み出すのです。劇場以外にも、悪党から盗みを働くなど、大胆な行動を繰り返します。

恋と追跡：刑事千里万里子

彼を追うのは、警視庁捜査二課の刑事、千里万里子です。がさつで男勝りな性格で、高校時代は関東女番長連合の中ボスとして名を馳せていました。射撃や体術の腕も高く、国賓の護衛や海外での女性警察官の教育を依頼されるほどの能力を持っています。しかし、一方で、強烈な鳥アレルギーという弱点も持ち合わせています。鳥の姿を見たり、声を聞いたりすると、じんましんが出るだけでなく、体が子供のように小さくなってしまうのです。

万里子は、いんこに恋心を抱きながらも、彼を逮捕しようと追いかけます。この複雑な感情と、いんこの巧妙な犯行、そして演劇を巡る様々な出来事が、作品に独特のスパイスを加えています。

個性豊かな登場人物たち

物語には、いんこを支える手乗りのインコや犬の玉サブロー、万里子の父親である千里警部、そして他の刑事など、個性豊かな登場人物たちが登場します。玉サブローは、いんこの盗みの手伝いをしたり、演劇に出演したりと、物語にユーモラスな要素を付け加えています。いんこの前に現れる幻影「いんこのホンネ」は、いんこの心の葛藤を象徴する存在として描かれています。

衝撃の真実と舞台への情熱

物語の後半では、いんこの正体や万里子の過去、そして彼らを繋ぐ意外な真実が明らかになります。いんこの正体は、財界のキングと呼ばれる鍬潟隆介の息子、鍬潟陽介だったのです。陽介は、父の不正を暴くため、役者泥棒として活動していました。そして、物語のクライマックスは、陽介が父への糾弾劇を一人舞台として上演する場面で幕を閉じます。

様々なメディア展開

『七色いんこ』は、漫画以外にも様々なメディアに展開しています。2000年、2018年には舞台化され、2024年にはミュージカルとして上演予定です。また、石田敦子と中谷チカによるリメイク漫画も連載されており、原作とは異なる魅力で読者を惹きつけています。

手塚治虫の演劇への想いが凝縮された作品

『七色いんこ』は、単なる泥棒物語ではありません。手塚治虫が若い頃に大阪の劇団で活動していた経験や、演劇への深い愛情が感じられる作品です。演劇の面白さ、裏側、そして人々の情熱が、見事に描かれています。漫画、舞台、そしてリメイク漫画と、様々な形で受け継がれていく『七色いんこ』の世界は、今後も多くの読者や観客を魅了し続けることでしょう。

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