三三七拍子
明治大学應援團で誕生し、日本の応援文化を代表する存在となった三三七拍子（さんさんななびょうし）。これは、「手拍子を3回、次に3回、そして7回続けて打つ」という独特なリズム様式であり、単なるスポーツ応援にとどまらず、激励や祝勝、ビジネスシーン、さらには文化・芸術分野に至るまで、非常に幅広い場面で用いられています。そのリズミカルな響きは、人々の心を一つにし、士気を高める効果があるとして、国民に広く親しまれています。
三三七拍子の歴史は、日本の近代スポーツ応援の黎明期にあたる大正時代に始まります。1921年（大正10年）、明治大学應援團の初代団長を務めていた相馬基（そうま もとい）氏によって考案されたとされています。初めて公の場でこの応援技法が披露されたのは、同年に開催された早稲田大学との対抗戦での出来事でした。その後、戦前から戦後にかけて人気を博した六大学野球などを通じてその知名度は高まり、全国へと広がる基盤が作られました。
全国的な普及と定着には、明治大学を卒業した人々が大きな役割を果たしました。彼らが各地の企業や学校で運動会などの応援指導に携わる際に三三七拍子を取り入れたことで、この独特なリズムは日本中に深く根を下ろすことになります。現在では、地域の小中学校から大学、プロ野球、高校野球、さらには国際大会であるオリンピックの応援に至るまで、多様なスポーツイベントで定番の応援スタイルとして採用されています。また、スポーツの場面以外でも、物事を勢いよく締めくくりたい時や、誰かを励ます時、あるいは目標達成や勝利を祝う際の縁起担ぎとしても頻繁に使用されており、その応用範囲の広さが伺えます。
「拍子」という言葉が含まれるため、音楽的な拍子と関連付けられがちですが、三三七拍子は西洋音楽の理論における厳密な「拍子」の定義とは異なります。音楽学者の岩井正浩氏（神戸大学名誉教授）は、三三七拍子の特徴的なリズム構造を分析し、「三」「三」「七」という手拍子の塊の間にわずかな「間」（ブレイク）が存在することを指摘しました。この間を考慮に入れると、実質的には「四・四・八拍子」に近い構造であるとの考察も示されています。
さらに興味深いのは、この三三七拍子のリズムパターンが、その後の日本の大衆音楽、特に歌謡曲やポップスに少なからず影響を与えているという指摘がある点です。意図的か無意識的かは定かではありませんが、多くの日本の有名楽曲の中に、三三七拍子を連想させるリズミカルなフレーズや構造が見られると言われています。具体例として、童謡の「チューリップ」、映画主題歌「青い山脈」、日本のロック黎明期とされるザ・スパイダースの「フリフリ」（日本のロックに三三七拍子を最初に取り入れたとされる）、ピンク・レディーの「サウスポー」、TRFの「EZ DO DANCE」、モーニング娘。の「恋愛レボリューション」、X JAPANの「紅」、TOKIOの「自分のために/for you|自分のために_for you」、そしてNHKの2014年FIFAワールドカップテーマ曲であった椎名林檎の「NIPPON」などが挙げられており、その影響範囲はジャンルや時代を超えています。
三三七拍子は、その発祥の地であるスポーツ応援の枠を大きく超え、日本の社会や文化の様々な場面で活用され、人々の記憶に残るエピソードを生み出してきました。
オリンピックでの登場: 国際的な大舞台であるオリンピックでも、三三七拍子は重要な役割を果たすことがあります。特に印象深いのが1972年のミュンヘンオリンピックです。男子バレーボール準決勝の対ブルガリア戦で、絶体絶命のピンチに立たされた日本チームを鼓舞するため、「オリンピックおじさん」として知られた山田直稔氏が、会場全体を巻き込んだ三三七拍子の音頭を取りました。この応援が呼び水となり、会場の雰囲気が一変。チームは奇跡的な大逆転勝利を収め、その後の金メダル獲得に繋がる大きな力となりました。また、2012年のロンドンオリンピックでは、日本オリンピック委員会（JOC）が「1億2500万人の大応援団」キャンペーンを展開し、その象徴として三三七拍子を前面に打ち出しました。2016年のリオデジャネイロオリンピック関連では、和楽器バンドによるテーマ曲のイントロに三三七拍子が使用されるなど、形を変えながら国際的な注目を集めています。
プロ野球における定着: 日本のプロ野球においては、今やほとんど全ての球団で三三七拍子が応援の一部として採用されています。例えば、読売ジャイアンツでは得点時のテーマ、阪神タイガースや広島カープではヒットや攻撃開始時のテーマ、横浜DeNAベイスターズでは攻撃開始時に3回連続で行われるなど、各球団がそれぞれの応援スタイルに合わせて多様な形で三三七拍子を取り入れています。中には、埼玉西武ライオンズの公式応援テーマソングのように、「三三七拍子」という楽曲名そのものが応援に用いられている例もあります。
ビジネスシーンと企業文化: パナソニック（旧・松下電器）では、創業者の松下幸之助氏が考案し、1931年から続いた正月恒例の伝統行事「初荷」において、販売店でのあいさつの締めくくりに三三七拍子を用いるのが習わしでした。この行事は中断されましたが、三三七拍子を用いる企業文化の一部は現在もグループ内で継承されています。
アミューズメント施設: 東京ディズニーリゾートで過去に開催されたスペシャルイベント「ディズニー・イースター」のパレード演目『ヒッピティ・ホッピティ・スプリングタイム』では、キャラクターたちがエッグレースの応援として三三七拍子を行うシーンがあり、エンターテイメントの場でもそのリズムが活用されています。
公共インフラへの採用: 意外な活用例としては、高速道路の一部区間に設置されている「メロディーロード」があります。これは、路面に特殊な加工を施し、通過する際に車内で特定のメロディが聞こえるようにするもので、速度超過抑制や眠気防止を目的としています。このメロディーとして、三三七拍子が採用されている区間が全国各地に存在します。
文化・創作活動のモチーフ: 三三七拍子は、その象徴性から様々な創作活動のインスピレーションとなっています。重松清氏の小説で後にテレビドラマ化もされた『あすなろ三三七拍子』をはじめ、爆笑問題のエッセイ『三三七拍子』、久保ミツロウ氏の漫画『3.3.7ビョーシ!!』、KICK THE CAN CREWやがんばれ!Victoryなどのアーティストによる楽曲など、文学、漫画、音楽といった多様なジャンルで三三七拍子を題材とした作品が生まれています。
明治大学應援團で考案され、日本の応援文化の象徴として定着した三三七拍子は、スポーツ応援のみならず、ビジネス、文化、日常生活に至るまで、私たちの社会の様々な場面に深く浸透しています。それは単なるリズムに留まらず、人々の連帯感を強め、前向きな気持ちを引き出すための効果的な手段として、これからも多くの人々に受け継がれていくことでしょう。その独特な響きは、日本の「頑張ろう！」という気持ちを表現するアイコンであり続けています。
起源と歴史
三三七拍子の歴史は、日本の近代スポーツ応援の黎明期にあたる大正時代に始まります。1921年（大正10年）、明治大学應援團の初代団長を務めていた相馬基（そうま もとい）氏によって考案されたとされています。初めて公の場でこの応援技法が披露されたのは、同年に開催された早稲田大学との対抗戦での出来事でした。その後、戦前から戦後にかけて人気を博した六大学野球などを通じてその知名度は高まり、全国へと広がる基盤が作られました。
全国的な普及と定着には、明治大学を卒業した人々が大きな役割を果たしました。彼らが各地の企業や学校で運動会などの応援指導に携わる際に三三七拍子を取り入れたことで、この独特なリズムは日本中に深く根を下ろすことになります。現在では、地域の小中学校から大学、プロ野球、高校野球、さらには国際大会であるオリンピックの応援に至るまで、多様なスポーツイベントで定番の応援スタイルとして採用されています。また、スポーツの場面以外でも、物事を勢いよく締めくくりたい時や、誰かを励ます時、あるいは目標達成や勝利を祝う際の縁起担ぎとしても頻繁に使用されており、その応用範囲の広さが伺えます。
音楽的側面
「拍子」という言葉が含まれるため、音楽的な拍子と関連付けられがちですが、三三七拍子は西洋音楽の理論における厳密な「拍子」の定義とは異なります。音楽学者の岩井正浩氏（神戸大学名誉教授）は、三三七拍子の特徴的なリズム構造を分析し、「三」「三」「七」という手拍子の塊の間にわずかな「間」（ブレイク）が存在することを指摘しました。この間を考慮に入れると、実質的には「四・四・八拍子」に近い構造であるとの考察も示されています。
さらに興味深いのは、この三三七拍子のリズムパターンが、その後の日本の大衆音楽、特に歌謡曲やポップスに少なからず影響を与えているという指摘がある点です。意図的か無意識的かは定かではありませんが、多くの日本の有名楽曲の中に、三三七拍子を連想させるリズミカルなフレーズや構造が見られると言われています。具体例として、童謡の「チューリップ」、映画主題歌「青い山脈」、日本のロック黎明期とされるザ・スパイダースの「フリフリ」（日本のロックに三三七拍子を最初に取り入れたとされる）、ピンク・レディーの「サウスポー」、TRFの「EZ DO DANCE」、モーニング娘。の「恋愛レボリューション」、X JAPANの「紅」、TOKIOの「自分のために/for you|自分のために_for you」、そしてNHKの2014年FIFAワールドカップテーマ曲であった椎名林檎の「NIPPON」などが挙げられており、その影響範囲はジャンルや時代を超えています。
多岐にわたる活用とエピソード
三三七拍子は、その発祥の地であるスポーツ応援の枠を大きく超え、日本の社会や文化の様々な場面で活用され、人々の記憶に残るエピソードを生み出してきました。
オリンピックでの登場: 国際的な大舞台であるオリンピックでも、三三七拍子は重要な役割を果たすことがあります。特に印象深いのが1972年のミュンヘンオリンピックです。男子バレーボール準決勝の対ブルガリア戦で、絶体絶命のピンチに立たされた日本チームを鼓舞するため、「オリンピックおじさん」として知られた山田直稔氏が、会場全体を巻き込んだ三三七拍子の音頭を取りました。この応援が呼び水となり、会場の雰囲気が一変。チームは奇跡的な大逆転勝利を収め、その後の金メダル獲得に繋がる大きな力となりました。また、2012年のロンドンオリンピックでは、日本オリンピック委員会（JOC）が「1億2500万人の大応援団」キャンペーンを展開し、その象徴として三三七拍子を前面に打ち出しました。2016年のリオデジャネイロオリンピック関連では、和楽器バンドによるテーマ曲のイントロに三三七拍子が使用されるなど、形を変えながら国際的な注目を集めています。
プロ野球における定着: 日本のプロ野球においては、今やほとんど全ての球団で三三七拍子が応援の一部として採用されています。例えば、読売ジャイアンツでは得点時のテーマ、阪神タイガースや広島カープではヒットや攻撃開始時のテーマ、横浜DeNAベイスターズでは攻撃開始時に3回連続で行われるなど、各球団がそれぞれの応援スタイルに合わせて多様な形で三三七拍子を取り入れています。中には、埼玉西武ライオンズの公式応援テーマソングのように、「三三七拍子」という楽曲名そのものが応援に用いられている例もあります。
ビジネスシーンと企業文化: パナソニック（旧・松下電器）では、創業者の松下幸之助氏が考案し、1931年から続いた正月恒例の伝統行事「初荷」において、販売店でのあいさつの締めくくりに三三七拍子を用いるのが習わしでした。この行事は中断されましたが、三三七拍子を用いる企業文化の一部は現在もグループ内で継承されています。
アミューズメント施設: 東京ディズニーリゾートで過去に開催されたスペシャルイベント「ディズニー・イースター」のパレード演目『ヒッピティ・ホッピティ・スプリングタイム』では、キャラクターたちがエッグレースの応援として三三七拍子を行うシーンがあり、エンターテイメントの場でもそのリズムが活用されています。
公共インフラへの採用: 意外な活用例としては、高速道路の一部区間に設置されている「メロディーロード」があります。これは、路面に特殊な加工を施し、通過する際に車内で特定のメロディが聞こえるようにするもので、速度超過抑制や眠気防止を目的としています。このメロディーとして、三三七拍子が採用されている区間が全国各地に存在します。
文化・創作活動のモチーフ: 三三七拍子は、その象徴性から様々な創作活動のインスピレーションとなっています。重松清氏の小説で後にテレビドラマ化もされた『あすなろ三三七拍子』をはじめ、爆笑問題のエッセイ『三三七拍子』、久保ミツロウ氏の漫画『3.3.7ビョーシ!!』、KICK THE CAN CREWやがんばれ!Victoryなどのアーティストによる楽曲など、文学、漫画、音楽といった多様なジャンルで三三七拍子を題材とした作品が生まれています。
まとめ
明治大学應援團で考案され、日本の応援文化の象徴として定着した三三七拍子は、スポーツ応援のみならず、ビジネス、文化、日常生活に至るまで、私たちの社会の様々な場面に深く浸透しています。それは単なるリズムに留まらず、人々の連帯感を強め、前向きな気持ちを引き出すための効果的な手段として、これからも多くの人々に受け継がれていくことでしょう。その独特な響きは、日本の「頑張ろう！」という気持ちを表現するアイコンであり続けています。
もう一度検索
【記事の利用について】
タイトルと記事文章は、記事のあるページにリンクを張っていただければ、無料で利用できます。
※画像は、利用できませんのでご注意ください。
【リンクついて】
リンクフリーです。