世界価値観調査(WVS)の概要
世界価値観調査(World Values Survey、WVS)は、世界中の様々な国々の人々の価値観を調査する大規模な国際共同研究プロジェクトです。
社会科学者によって実施されており、人々の社会文化的価値観、道徳的価値観、宗教的価値観、そして政治的価値観などを網羅的に調査することを目的としています。調査の結果はインターネット上で公開されており、世界中の研究者や政策立案者にとって貴重なデータソースとなっています。
歴史と発展
WVSは、
1981年に欧州価値観調査(European Values Study、EVS)を起源としています。当初はヨーロッパ諸国を対象としていましたが、その後、世界各地の国々に調査対象を拡大し、現在では世界規模の調査となっています。
オランダのティルブルグ大学を拠点として、Jan KerkhofsとRuud de Moorの指導の下、開始されました。
ミシガン大学のRonald Inglehart教授も、調査の世界的な拡大に大きく貢献しました。
調査は、およそ5年ごとに実施されており、各回の調査は「波」と呼ばれています。2012年時点では第6波まで実施されており、各国の調査結果は順次公開されています。WVSのウェブサイトでは、第5波までのデータが公開されていますが、最新の第6波の結果も、一部は既に公表されています。これらのデータを時系列的に分析することで、世界の価値観がどのように変化してきたのかを明らかにすることが、このプロジェクトの重要な目標の一つです。
調査方法と範囲
WVSは、
面接調査による詳細な
アンケート調査によって実施されます。
アンケートの内容はWVSのウェブサイトで公開されており、最新の調査では約250個の質問項目から構成されています。各国の調査対象者は1000人から3500人で、第4波の調査では、世界全体で約92000人に
アンケートが行われました。しかし、各国でのサンプル抽出方法は必ずしも統一されておらず、その点には留意が必要です。例えば、
スロベニアの
社会科学者Adamは、ヨーロッパの価値観調査と欧州社会調査の結果に、かなりの違いがあることを指摘しています。このことは、調査結果を解釈する際には、各国の調査方法の違いを考慮する必要があることを示唆しています。
主要な調査結果
WVSの
アンケート調査からは、約250個の質問項目から400~800個の変数が導き出されます。その中から、特に注目されるいくつかの変数について説明します。
幸福度
WVSでは、各国の幸福度も測定されており、その結果についてメディアで広く報道されています。人気の統計サイトであるNationMasterでは、WVSのデータに基づいた世界幸福度ランキングを発表しています。WVSのウェブサイトでは、年齢や社会経済的地位による幸福度の違いなど、より詳細な分析結果を見ることができます。WVSのデータから明らかになった興味深い結果の一つに、1990年代における
ロシアと東ヨーロッパ諸国での幸福度の急激な低下があります。
イングルハート-ヴェルツェル図
イングルハート-ヴェルツェル図は、WVSの結果を視覚的に表現した最も有名な図の一つです。この図では、いくつかの変数を「伝統的-世俗的」と「サバイバル-自己表現」という2つの軸に圧縮することで、世界の国々を特定の文化圏に分類しています。この図によると、日本は最も非宗教的な国のひとつに分類されています。また、「伝統的-世俗的」軸は、宗教観だけでなく、親子関係、伝統的な家族観、権威への服従、離婚や中絶への態度、自国への誇り、ナショナリズムなども反映しています。伝統的な価値観を重視する文化ほど、この軸の値が高くなります。「サバイバル-自己表現」軸は、経済的・物質的な充足よりも、精神的・自己実現の充足を重視する傾向を表しており、近代化・産業化に伴う価値観の変化を示しています。自己表現志向の高まりは、性平等、多様性への寛容性、環境問題への関心の高まり、社会的信頼の向上などと関連しており、これらの価値観こそが民主主義社会の中核をなすとされています。
関連事項
国際社会調査プログラム
ポスト物質主義
参考文献
Ronald Inglehart and Wayne Baker (2000). “Modernization, Cultural Change and the Persistence of Traditional Values”. American Sociological Review 65: 19–51.
Christian Welzel, Ronald Inglehart & Hans-Dieter Klingemann (2003). "The Theory of Human Development: A Cross-Cultural Analysis." European Journal of Political Research 42(3): 341-79.
外部リンク
World Values Survey web site
European Values Survey web site