中村吉右衛門

歌舞伎役者名跡「中村吉右衛門」の系譜

「中村吉右衛門」は、歌舞伎界において重要な名跡です。江戸時代中期から続く歴史を持ち、現在では播磨屋系の吉右衛門が広く知られています。しかし、その歴史を紐解くと、佐野川屋系と播磨屋系の2つの系統が存在したことが分かります。

佐野川屋系 中村吉右衛門

佐野川屋を屋号とするこの系統は、宝暦期を代表する名女形、初代佐野川萬菊の弟を祖としています。

初代 中村吉右衛門 (佐野川屋): 1694年から1770年にかけて活躍しました。佐野川十蔵を襲名した後、中村十蔵、中村嘉津右衛門、中村喜津右衛門を経て、初代中村吉右衛門を襲名しました。詳細な芸風などは資料が乏しく不明な点も多いですが、当時を彩った名優であったことは間違いありません。
二代目 中村吉右衛門 (佐野川屋): 生没年不詳です。中村吉蔵から二代目中村吉右衛門を襲名しました。この系統に関する記録は少なく、詳細な活動については今後の研究が待たれます。

播磨屋系 中村吉右衛門

一方、播磨屋を屋号とし、定紋は揚羽蝶、替紋は村山片喰であるこの系統は、三代目中村歌六の長男を祖としています。「吉右衛門」という名跡は、初代の母方の祖父、小川吉右衛門の名に由来しています。

初代 中村吉右衛門 (播磨屋): 1886年から1954年にかけて活躍した、大正・昭和時代を代表する大看板です。尾上菊五郎とともに「菊吉時代」を築き、歌舞伎界に大きな足跡を残しました。その圧倒的な存在感と芸の高さは、多くの観客を魅了しました。
二代目 中村吉右衛門 (播磨屋): 1944年から2021年にかけて活躍しました。初代の娘婿であり、八代目松本幸四郎の次男にあたります。初代の養子となり、母方である播磨屋の芸と、父方である高麗屋の芸の双方を受け継ぎました。当代における歌舞伎界の重鎮として、高い評価を得ていました。その芸風は、繊細でありながら力強く、伝統を守りながらも独自の解釈を加えた、まさに時代を超越したものでした。

このように、中村吉右衛門という名跡は、佐野川屋系と播磨屋系の2つの系統を通じて、長きに渡り歌舞伎界を支えてきました。特に、播磨屋系の吉右衛門たちは、それぞれの時代に相応しい名優として、観客を魅了し続けました。その卓越した芸と存在感は、現代においても多くの歌舞伎ファンに記憶され、語り継がれています。それぞれの吉右衛門が時代を反映した演技で観客を惹きつけ、歌舞伎の歴史に大きな貢献をしたことは間違いありません。今後の研究により、佐野川屋系の吉右衛門たちの活動についても、より詳細な情報が明らかになることが期待されます。

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