亀の尾

亀の尾について

亀の尾（かめのお）は、明治時代に山形県の農家、阿部亀治によって育成された日本のイネ品種です。一般的には「亀の尾」という表記が使われますが、元の名前は「亀ノ尾」とされ、この記事では原品種を「亀ノ尾」、その子孫を「亀の尾」と表記します。

系統と概要

亀ノ尾は、その子品種として、陸羽132号（陸羽20号と亀の尾4号の交配）や農林1号（森多早生と陸羽132号の交配）などがあり、さらにそのご孫にはコシヒカリ（農林22号と農林1号の交配）やササニシキ（ハツニシキとササシグレの交配）などがあります。これらの品種は、亀ノ尾から受け継いだ優れた食味で知られています。また、亀ノ尾は酒造適正米としても使用され、多くの酒造好適米の子孫品種が存在します。

歴史

亀ノ尾の歴史は、明治維新以降、特に山形県庄内地方における米への情熱に根ざしています。阿部亀治は1893年、冷害の年に神社の近くの田んぼで、冷害にも耐えた3本の穂を見つけ、その穂を育成して新しい品種を作り上げました。1896年には特に良好な生育を見せた株を選び、さらに3年間研究を重ねた結果、亀ノ尾が誕生しました。

亀治はこの種籾を無償で周囲と分かち合い、また新しい農法の導入にも力を注ぎました。農業界での彼の功績は認められ、1927年には藍綬褒章を受章しました。亀ノ尾は当初「新穂」や「神穂」といった呼び名で呼ばれた後、友人の助言により「亀ノ尾」と命名されました。1925年には多くの地域で作付けされ、特に飯米・酒米として高い評価を受けました。

亀ノ尾は、純系分離法で「亀の尾1号」や「亀の尾4号」が育成され、ササニシキやコシヒカリといった品種へとその系統は引き継がれました。しかし、当時の農法では害虫に弱いことや化学肥料で育てると米がもろくなるなどの問題も抱えていました。食管法時代の影響で、次第にその品種は影を潜めることになりました。

復活

1970年代には亀の尾自体の栽培が減少しましたが、1980年、新潟県の久須美酒造に所属する久須美記廸がこの品種を復活させることに決定しました。1500粒の種子を譲り受け、育成を重ねた結果、1983年に亀の尾を原料に使った吟醸酒「亀の翁」が製造されることとなりました。この出来事は後に漫画『夏子の酒』のモデルにもなり、テレビドラマとしても全国に広まりました。

また、それと同時期に山形県の鯉川酒造でも亀の尾の復活が試みられ、阿部亀治のひこ孫から譲り受けた種籾を用いて実現に至りました。1983年には、鯉川酒造でも亀の尾を使った酒が完成しました。

亀の尾は、その粒の大きさや特性から吟醸酒や大吟醸酒の原料として非常に適しています。特に山田錦が主に西日本で栽培されている中、亀の尾は北日本で独自性を持ち、多くの杜氏によって再評価されていくこととなりました。

今では、亀の尾を使用した酒は多くの銘柄が生産され、2008年時点で久須美酒造だけでなく他の酒造メーカーでも亀の尾を使った作品が数多く生まれています。亀の尾の復活は、日本の酒文化においても重要な役割を果たしています。

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