信頼

信頼とは

信頼（しんらい）とは、一般的に、ある人や物事に対して、自分の期待どおりの結果が得られると信じる心の状態を指します。この信頼の度合いは、信頼性や信頼度といった言葉で定量的に表されることもあります。

社会学・社会心理学・心理学における信頼

信頼は、心理学、社会学、社会心理学など、様々な分野で重要な概念として扱われています。特に、乳幼児期における発達課題の一つとして、他者への信頼を確立することが重要視されており、この時期に信頼の獲得に失敗すると、生涯にわたり他者を信用することが難しくなるとも言われています。

社会学においては、ニクラス・ルーマンがその著書で信頼概念の社会学的分析の必要性を訴え、その後、アンソニー・ギデンズや多くの社会心理学者たちが研究を重ねてきました。現在では、リスク研究などにおいても、信頼は重要な分析概念として用いられています。

信頼と安心の区別

社会心理学者の山岸俊男は、著書『信頼の構造』（1998年）の中で、信頼と安心を明確に区別して考察しています。山岸は、相手が自分を搾取しようとしないという期待を、以下の2つに分けています。

1. 安心 (assurance)：相手が自分を搾取すると、相手自身にとって不利益になるという「相手の自己利益の評価」に基づく期待。
2. 信頼 (trust)：相手の人格や、自分に対して抱いている感情への評価に基づく期待。

山岸の考えによれば、欧米社会では信頼の崩壊が、旧社会主義国では中央権力の弱体化による安心の崩壊が起きており、日本社会においては、閉鎖的な社会から開かれた社会への移行が課題とされています。

集団主義社会と信頼

山岸は、「集団主義社会は安心を生み出すが信頼を破壊する」というメッセージを提示し、他人を信頼する正直者が損をしない開かれた社会を目指すべきだと主張しています。そのためには、社会的知性に裏打ちされた「一般的信頼」が、集団主義的な関係（やくざ型コミットメント）が提供する「安心」にとって代わる必要性を説いています。この変化を、進化ゲーム的なアプローチや共進化の概念を用いて考察しています。

社会的信頼と民族の多様性

また、2020年のメタ分析によると、社会的信頼と民族の多様性には負の相関があることが示唆されています。つまり、民族の多様性が高い社会では、社会的信頼が低い傾向にある可能性があるという指摘も存在します。

まとめ

信頼は、個人レベルから社会レベルまで、様々な場面で重要な役割を果たしています。特に、現代社会においては、社会の複雑化やグローバル化が進む中で、信頼の重要性がますます高まっています。信頼を育むためには、開かれたコミュニケーションや、公正な社会システムが不可欠であると言えるでしょう。

参考文献

ニクラス・ルーマン (訳)大庭 健 , 正村 俊之 (1990). 信頼—社会的な複雑性の縮減メカニズム. 勁草書房.
アンソニー・ギデンズ (訳)松尾 精文 , 小幡 正敏 (1993). 近代とはいかなる時代か?—モダニティの帰結. 而立書房.
山岸俊男 (1998). 信頼の構造—こころと社会の進化ゲーム. 東京大学出版会.

外部リンク

信頼の意味と構造―信頼とコミットメント関係に関する理論的・実証的研究 (PDF) 2017年9月29日閲覧.

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