全人教育

全人教育の理念

全人教育（ぜんじんきょういく）は、教育者小原國芳によって提唱された教育理念です。この概念は、大正デモクラシー期における教育改革運動のひとつである大正自由教育運動の中で生まれました。全人教育という言葉は、小原が自身の教育に関する発表を考える過程で創り出された用語で、彼はこの理念に基づいて玉川学園を設立しました。

全人教育の基本的思想

小原の定義によれば、「全人」とは「全き人間」を指し、教育の目的は人間文化の主要な6つの要素である学問、道徳、芸術、宗教、身体、生活において、「真」、「善」、「美」、「聖」という理想を培うことにあります。これらの要素は、さらに「健」、「富」という補助的な価値を備えた完全で調和のある人格を育むために重要とされています。つまり、全人教育では、従来の教育制度では十分に重視されてこなかった道徳や芸術、宗教に焦点を当て、人間の多面的な成長を目指すものです。

ドイツの価値哲学の影響

しかしながら、小原の理念には、ドイツの西南ドイツ学派の価値哲学からの影響が色濃く見られます。特に、パウル・ナトルプが提唱した価値概念が参考にされていますが、これらの価値がどのように相互に関連し合っているかについて、小原自身の考えは明確にされていない点が指摘されています。このため、全人教育の各要素が具体的にどのように実現されるのかは、解釈に幅があると言えるでしょう。

個性と全人教育

玉川大学の創成期に教育学を教えた三井浩は、全人教育の理念と個性の発現の関係を示唆しています。彼は、個人の中でこれらの価値がどのように実現されるかを探求し、そこから「個性」の発現を通じて全人が成立するという概念を提唱しました。小原の希望を受けて、この考えは玉川大学出版部から刊行された文献にまとめられています。

全人教育の広がりと多様性

その後、全人教育という概念は日本全国の学校に広まりましたが、それぞれの学校での解釈や実践方法には多様性があります。各学校が全人教育をどのように取り入れ、育成するかは異なり、個々の教育方針や理念に基づいて実施されています。玉川学園における全人教育の現状については、学校法人玉川学園の公式情報を参考にすることができます。

参考文献と関連項目

この教育理念に関する文献として、三井浩が著した『愛の場所　教育哲学序説』（玉川大学出版部、1974年）が挙げられます。さらに、小原國芳や八大教育主張、新教育、そして学校法人玉川学園に関連する情報も併せて知識として蓄えておくことが重要です。

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