判断力

判断力とは、大辞泉によれば「物事を正しく認識し、評価する能力」と定義されています。この能力は、可能性や能力の問題にも深く関わるとされています。

哲学的な文脈においては、イマヌエル・カントの『判断力批判』が、この分野における古典として広く知られています。カントは判断力を「Urteilskraft」と表現し、これは純粋理性や実践理性と対比される概念として用いられました。カントにおける判断力は、単に正しい認識をする能力ではありません。彼は、真偽を判断する純粋理性と、何をなすべきか、行為の善悪を判断する実践理性との間に橋を架けるような能力として判断力を捉えました。つまり、趣味的な判断を下す能力として理解されていたのです。

カント哲学における判断力は、美的なものや崇高なものに対する主観的な評価、つまり「趣味判断」を行う能力と密接に関連しています。彼は、趣味判断が単なる個人の好みを表すだけでなく、普遍的な妥当性を持ちうることを示そうとしました。この普遍性は、理性的な概念に基づいているのではなく、むしろ感情や想像力といった人間の能力に根ざしていると考えられています。

また、判断力は、社会的な文脈においても重要な意味を持ちます。例えば、刑事裁判においては、被告人が事件当時、事理弁識能力（善悪を判断し、その判断に基づいて行動する能力）を有していたかどうかが重要な判断基準となります。もし、被告人が判断能力を欠いていたと判断されれば、責任能力がないとされ、刑罰が軽減または免除されることがあります。もっとも、この文脈における判断能力は、哲学的な意味合いとは必ずしも一致しません。

このように、判断力は、認識、評価、意思決定といった人間の基本的な能力に関わる重要な概念であり、哲学、法律、心理学など、様々な分野で議論されています。その多面的な性質から、一言で定義することは難しいですが、状況を理解し、適切な行動を選択するための基盤となる能力であると言えるでしょう。

関連語句：

判断力批判
事理弁識能力

もう一度検索