古川豪

京都市に生まれたフォークシンガー、古川豪は、1950年3月26日にその生を受けました。彼の音楽活動は、1969年に京都ベ平連が主催した「橋の下大学」での歌唱を契機に幕を開けます。

初期の活動と音楽スタイルの確立

音楽シーンに登場した古川豪は、すぐさま中川五郎や豊田勇造、中山ラビといった同時代のフォークシンガーたちと交流を深めていきました。1971年には、写真家の大塚努が手掛けた自主制作盤『フルッチンのうた』を発表。このライブ盤には、「トカトントン」といった代表曲の萌芽が含まれています。その後、ザ・ディランIIの永井洋をプロデューサーに迎えたセカンドアルバム『羅針盤で星占いはできない』（1973年）、そしてサードアルバム『原子力時代の昔語り』（1976年）をURCレコードから世に問いました。これらの初期作品において、彼は既にアメリカ南部のマウンテン・ミュージックや、イギリス、アイルランドといったブリティッシュ・トラッド音楽からの影響を消化しつつ、独自のサウンドを追求していました。同時に、日本のわらべ唄や大衆芸能にも着目し、日本の風土に根ざしたフォークソングの可能性を模索。後に「上々颱風」を結成する紅龍や、チンドン通信社の創立メンバーらとの交流も深め、特に紅龍は、古川がバンジョーで沖縄民謡を歌うスタイルに触発され、バンジョーを三味線のように用いる奏法を編み出したと言われています。

彼の演奏スタイルは非常にユニークです。フラットピックを使わず、4本の指のみで弦を操るフィンガーピッキングによるギターは、ドライブ感がありながらも不思議な響きを持ちます。また、古典的なバンジョー奏法も取り入れ、これらの楽器を通じて、市井の人々の日常に寄り添う喜怒哀楽を歌に紡いできました。

社会への眼差しと継続するメッセージ

1980年代に入ると、古川豪は社会的なメッセージをより明確に打ち出した作品を発表します。自主制作された『原子力列島のラブソング』は、その名の通り、反原発の主張を込めた歌集とテープでした。彼は早くから原子力問題に関心を寄せ、『原子力時代の昔語り』のタイトルにもそれが表れています。

彼の活動は音楽だけにとどまりません。反原発集会や環境保護イベントにも積極的に参加し、歌を通じて自らの考えを発信し続けています。また、障害者支援や国際交流にも力を入れ、国際障害者年記念アルバムへの協力や、タイの人気グループ「カラワン」やボリビアの「アイマラ」を日本に紹介するといった活動も行いました。

絶え間ないライブ活動と「七夕コンサート」

古川豪の特筆すべき点は、1960年代のデビュー以来、地道なライブ活動を途切れることなく続けていることです。ライブハウスはもちろん、町おこしや環境保護を目的とするNPOからの招きに応じ、日本各地で歌声を届けてきました。福岡風太が主催した伝説的な「春一番コンサート」にも名を連ね、そのステージに立ち続けました。

中でも、1973年から豊田勇造、中山ラビ、ひがしのひとし、三浦久と共に続けている「七夕コンサート」は、実に半世紀近くにわたって開催されており、これは日本のフォークコンサートとしては最長寿とも言える記録です。この継続性は、彼の音楽活動の揺るぎない基盤を示すものです。

また、彼は文章表現においても才能を発揮し、タウン誌「京都かわら版」に京都フォーク史を3年間連載したり、京都新聞にエッセイを寄稿したりしています。2001年には彼のドキュメンタリー番組が毎日放送で制作・放映され、その活動が広く紹介されました。2012年からは京都市人権資料館「ツラッティ千本」の事務局長を務めるなど、多角的な社会貢献活動にも携わっています。

20世紀末には最新作となるCDアルバム『なのりその森、ふうの街』（1999年）を発表。過去のURC時代のアルバムも何度か復刻され、世代を超えてその音楽が聴き継がれています。

娘は放送作家として活躍する古川かずな氏です。

古川豪は、単なるミュージシャンにとどまらず、市井の声、社会の課題に真摯に向き合い、歌と活動を通じて人々と深く関わり続けている希有な存在と言えるでしょう。彼の音楽は、静かに、しかし力強く、聴く者の心に語りかけます。

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