大誘拐

『大誘拐』の概要

『大誘拐』は、1978年に天藤真によって発表された推理小説です。この作品は、1979年に第32回日本推理作家協会賞を受賞し、また20世紀国内部門の週刊文春ミステリーベスト10で第1位を獲得しました。

あらすじ

導入

物語の舞台は大阪刑務所。スリ師の戸並健次は3度目の服役中に、犯罪に割に合わないことを悟ります。しかし、真の更生を目指す健次はまとまった金が必要だと考え、ある大きな勝負に出ることを決意します。それは、和歌山の「最後の山林王」と称される老婦人、柳川とし子の誘拐です。とし子は孤児園の出身で、地域住民から深く敬愛されているため、彼女が危険に晒されれば、身代金が用意される確率が高いと健次は見込んだのです。

健次は同じ囚人仲間の空き巣・秋葉正義と、その後仲間に加わったカッパライの三宅平太と共に、計画を進めます。彼らは慎重にアジトの確保や監視体制を整え、和歌山市内での誘拐実行の準備が進んでいきます。

事件の展開

計画を持つ3人組は、最初の監視活動に手間取りながらも、やがてとし子の行動パターンをつかみ、誘拐に成功します。しかし、誘拐直後からとし子は見た目に反して冷静に犯人たちを分析し始めます。アジトが和歌山市内であること、使用する車両の情報まで察知されてしまうことで、健次たちは動揺を隠せません。それでも、健次はとし子との交渉を続け、新たな山間部の隠れ家として、彼女の昔の家政婦、中村くらの家に移動することになります。

そこでの生活を通して、彼らは「虹の童子」という名前の誘拐組織としての結束を強めていきます。同時に、彼らの求める身代金も当初の5000万円から、なんととし子の口から100億円という狂った金額に引き上げられ、彼らは驚愕の後に狼狽します。この予想外の事態から、次第にとし子は誘拐団を主導する立場へと立ち上がってゆきます。

事件のクライマックス

和歌山県警の井狩大五郎本部長も動き出します。彼はとし子の過去に恩を受けた者で、冷静な頭脳で犯人に立ち向かうための準備を進めていく中、事件はさらに大きな展開へと進みます。とし子は、性格を活かした巧妙な協力を行い、メディアにも彼女の存在を利用させることで、事件は世界的に注目を集めることとなります。

事件の結末

最終的に、とし子の機転と知恵により、身代金が手に入ることとなります。しかし、井狩はただの誘拐事件と思わず、真実を追い求め続けます。そんな中で、事件の根本にはとし子の思いがありました。彼女は日本国政府への反発をこの誘拐を通じて表現していたのです。

井狩が真実を見抜く中、とし子の動機が次第に明らかになり、彼女の背負った意義と苦悩が浮き彫りになります。名家の主として、社会に対する反発を抱えながらも、彼女は「メルヘン」のような一時を感じていたのかもしれません。それは、彼女の人生の集大成とも言える戦いでもあったのです。

後日談

事件の後、実行犯たちはそれぞれの道を選びます。平太や正義は悪から足を洗う決心をし、健次は柳川家に関わることで新たな人生を歩むことになります。そして、とし子も健康を取り戻し、新しい生き甲斐を見つけ、一時は失った希望を取り戻すのでした。

この『大誘拐』は、犯罪の裏に潜む人間ドラマや感情を巧みに描写した力作となっており、読者に深い印象を与える作品です。

もう一度検索