山爺

山爺（やまじじい）

山爺は、日本の山に棲む妖怪の一種で、特に四国地方に伝承が多く残っています。地域によっては「やまんじい」とも呼ばれます。

姿と特徴

山爺の姿は、一つ目一本足の老人の姿をしているとされています。しかし、『近世土佐妖怪資料』によれば、高知県に伝わる山爺は、身長が90～120センチメートルほどで、全身に鼠色の短い毛が生え、目は二つあるものの、片方が極端に小さいため一つに見えるとされています。このことから、一つ目の伝承は、二つ目が誤解されて伝わった可能性も指摘されています。

山爺は非常に丈夫な歯を持ち、イノシシやサルの骨をダイコンのように噛み砕くと言われています。そのため、猟師が山爺を手懐け、オオカミを追い払うために利用していたという話も残っています。

行動と伝承

山爺は、人間の往来する道に現れることがありますが、人に見られることは稀です。しかし、6,7尺（約1.8～2.1メートル）おきに、杵で押したように丸い足跡を残すと言われています。

また、山爺は非常に大きな声の持ち主で、その叫び声は山中に響き渡り、天地を震わせ、木の葉を落とし、付近の木や岩を動かすほどだと伝えられています。あまりの音量に鼓膜が破られて死んでしまう人もいたとか。そのため、山爺は人間に大声比べを挑むことがあり、猟師が銃声で打ち負かすという昔話が各地に残っています。しかし、銃声に騙されたと気づいた山爺は、クモに化けて相手の家に忍び込み、復讐をするとも言われています。

猟師たちは大声比べに備え、大晦日の晩に伊勢八幡大菩薩に祈りながら作った銃弾を常に携帯していました。この銃弾は、狙わなくても命中するが、携帯していると必ず妖怪に出遭ってしまうという不思議なもので、山爺に対してこの銃弾を撃つと脅すと、山爺は恐れて逃げ去ったと言われています。

さらに、山爺は人の心を読めるという話もあります。『阿州奇事雑話』によれば、夜の山小屋にいた木こりの考えを次々と読み当てましたが、焚き火の木が山爺に弾け飛んだ際、自分が読み取れなかった出来事が起きたことに驚いて逃げ出したとされています。

性格と教訓

山爺は、同じ山の妖怪である山姥に比べると比較的おとなしい性格で、人に騙されることもあるとされています。しかし、子供や家畜を攫うという伝承も存在します。また、山姥と同様に、山爺も人に富をもたらすという説もあります。

高知県物部村（現・香美市）では、山爺にタカキビの種をもらった者が大豊作となり、そのお礼に餅をたくさん食べさせたという話があります。しかし、山爺が食べ過ぎるようになったため、餅と偽って焼き石を食べさせたところ、山爺は命を落としてしまい、その後、豊作だった家は衰退してしまったという教訓話も残っています。

『土佐お化け草紙』には、馬で荷を運んでいた男が山爺に荷物を食べられ、最終的には馬まで食べられてしまったという話が収録されています。この挿絵では、山爺が二本足で描かれていますが、これは伝説上の山爺が一つ目一本足であるのに対し、昔話における山爺は人間と同じ姿の巨人とされているためだと考えられています。

山爺は、人々に親しまれながらも、畏怖の念を抱かせる存在として、日本の山に生き続けているのです。

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