復讐したい

復讐したい：近未来の復讐劇

山田悠介による2011年発表の小説『復讐したい』とその映画化作品(2016年公開)は、犯罪被害者に復讐の機会を与える近未来の日本を描いたホラー作品です。小説では、重大犯罪の被害者または遺族が、加害者への復讐を選択できるという「復讐法」の成立を背景に、物語は展開されます。この設定は、現代社会における正義や復讐、そして加害者と被害者の複雑な関係性を鋭く問いかけるものです。

小説版：無人島での100時間

小説版では、数々の凶悪事件を起こした宗教団体「世界プラーナ教団」の教祖とその信者たちが逮捕された直後、主人公の高橋泰之は、妻の泉を小寺諒に殺害されます。泰之は「復讐法」を利用し、小寺への復讐を決意します。

泰之は、同じく復讐を選んだ他の被害者たちとともに、無人島・蛇岩島へ送られます。この島は、復讐を実行するための特設施設となっており、GPSによる加害者の位置情報、武器、食糧などが支給されます。しかし、復讐には100時間という制限時間があり、失敗すれば加害者は無罪放免となります。さらに、島内は無法地帯であり、加害者が復讐者を殺害しても罪に問われません。

蛇岩島で、泰之は妻にそっくりな女性、星野範子と出会います。様々な思惑が渦巻く中、泰之は亡き妻のために、そして他の復讐者たちと共に、過酷な復讐劇に身を投じていきます。教団信者である小寺は、巧みに逃亡を図り、泰之は彼を追いつめる中で、多くの困難と衝撃的な真実とに直面することになります。

映画版：環境テロと18時間の制限時間

映画版では、原作の設定が一部変更されています。「世界プラーナ教団」は過激派環境団体「アースウイング」となり、テロ事件も毒ガス攻撃から環境破壊へと変わっています。また、復讐の制限時間が100時間から18時間に短縮され、無人島でのサバイバル要素が強調されています。

映画版では、主人公の高橋泰之は中学教師で、妻の泉との間に子供が出来ることを喜んでいる矢先、泉は小寺諒に殺害されます。泰之は復讐法によって小寺を裁くことを決意し、蛇岩島へ向かうのです。

映画オリジナルの要素として、アースウイングによる核爆発計画などが追加され、物語にさらなる緊張感とスケール感が加えられています。さらに、映画では複数のアーティストが手掛けた音楽も重要な役割を果たし、劇的な展開を盛り上げています。

共通点と相違点

小説版と映画版は、基本的なストーリーラインは共通していますが、設定や展開、登場人物の描写などに違いがあります。小説版は心理描写や社会的なテーマに重点を置いており、より深く人間の闇や復讐の倫理性を問いかけています。一方、映画版はアクションやサスペンス要素を強化し、エンターテイメント性が高められています。

どちらの作品も、復讐というテーマを多角的に捉え、現代社会の問題点を浮き彫りにしています。復讐の是非、正義の在り方、そして人間の心の複雑さといったテーマは、観る者、読む者に深い余韻を残すでしょう。どちらも独自の視点と魅力を持つ作品であり、比較して鑑賞することで、より深い理解が得られるでしょう。

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