恋飛脚大和往来

歌舞伎演目『恋飛脚大和往来』：梅川忠兵衛の物語

『恋飛脚大和往来』（こいのたよりやまとおうらい）は、歌舞伎における代表的な演目のひとつです。通称『梅川忠兵衛』（うめがわちゅうべえ）として広く知られており、人形浄瑠璃『けいせい恋飛脚』を歌舞伎用に脚色した作品です。

物語の概要

大和国新口村の百姓の息子、忠兵衛は、大坂の飛脚屋亀屋に養子に出され、亀屋の一人娘おすわと婚約していました。しかし、先代の甥にあたる利兵衛は、丹波屋八右衛門と結託し、亀屋の跡取りを奪おうと企みます。利兵衛はおすわにも横恋慕しており、忠兵衛を陥れようとします。一方、忠兵衛は新町の遊女梅川と深い仲になり、遊郭に通いつめていました。

物語は、忠兵衛を取り巻く様々な人間関係と陰謀が複雑に絡み合い、様々な困難が忠兵衛と梅川の前に立ちはだかります。利兵衛による毒殺未遂、梅川の身請けのための金策、おすわの葛藤、そして忠兵衛と梅川の逃亡劇と、クライマックスに向かう展開は、見る者の心を掴んで離しません。

各場面の解説

演目は大きく分けて「亀屋」「封印切（茶屋）」「新口村」の三つの場面から構成されています。「生玉神社」の場面も存在しましたが、現在では上演されていません。

1. 亀屋：

利兵衛の企みから物語が始まります。利兵衛は神酒徳利に毒を仕込み忠兵衛を殺そうとしますが、忠兵衛はその企みを看破し、利兵衛自身が毒を飲んでしまうという展開になります。この場面では、利兵衛の悪巧みと、それをめぐる登場人物たちの駆け引きが見どころです。おさのの献身的な行動や、医者の道哲の意外な正体などが明らかになるのもこの場面です。

2. 封印切（茶屋）：

梅川との別れを誓った忠兵衛でしたが、未練を残したまま新町へと向かいます。この場面では、忠兵衛と梅川が再会し、互いの想いを語り合います。忠兵衛の蔵屋敷からの預かり金を用いて梅川の身請けを果たそうとするも、八右衛門との対決が勃発。忠兵衛の勇気と、梅川への深い愛情が描かれます。

3. 新口村：

忠兵衛と梅川は、人目を避けながら故郷の大和国新口村へと逃亡します。しかし、村にはすでに忠兵衛を追う者たちが待ち構えていました。この場面では、忠兵衛と梅川が、雪の降る中、忠兵衛の父である孫右衛門と再会するかどうかという、切ない場面が描かれます。親子としての愛情、そして別れが、雪景色の中で静かに、そして力強く表現されます。

作品の特徴と歴史

『恋飛脚大和往来』は、『けいせい恋飛脚』を基に、歌舞伎の演目として脚色された作品です。そのため、物語の筋やセリフは『けいせい恋飛脚』と共通する部分が多いですが、歌舞伎独自の演出や工夫が加えられています。特に「封印切」と「新口村」の場面は、独立して上演されることも多く、歌舞伎の人気演目として今日まで受け継がれています。

様々な役者が、それぞれの個性と解釈でこの作品を演じてきました。忠兵衛、梅川、八右衛門といった主要な役柄は、歌舞伎役者の力量を試す難しい役どころであり、名優たちが培ってきた伝統と技が受け継がれています。

『恋飛脚大和往来』は、時代を超えて多くの人々に愛され続ける、日本の伝統芸能の粋を凝縮した作品と言えるでしょう。切ない恋物語と、複雑な人間模様、そして見事な舞台演出は、今もなお多くの観客を魅了し続けています。

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