手の目

手の目（てのめ）

手の目は、江戸時代の画家・鳥山石燕の著作『画図百鬼夜行』に登場する日本の妖怪の一つです。独特の外見を持ち、異様な姿が人々の興味を引きつけています。手の目は、座頭姿をした妖怪で、両目が顔の上にあって見る者を不気味にさせますが、特に特徴的なのはその目が手の平にそれぞれ存在する点です。この独特な描写のため、手の目にはさまざまな解釈や伝承が生まれました。

手の目の由来と伝承

『画図百鬼夜行』が出版されたのは1776年ですが、その中には手の目についての詳細な解説は存在しません。しかし、熊本県八代市の松井文庫に所蔵されている天保年間の妖怪絵巻『百鬼夜行絵巻』には、手の目を模したと思われる妖怪画が存在し、そこでは「手目坊主」という名称が付けられています。また、別の妖怪図巻『化物づくし』にも同様の図が登場していますが、その説明も不明なままとなっています。

興味深いことに、妖怪研究家である乾猷平は、紫水文庫に所蔵されている古い写本においても「手の目」が登場することを指摘しています。この中では、手の目は「荒れた草村で生じる」と記されているものの、その詳細ははっきりしていません。

江戸時代の怪談集『諸国百物語』には、特徴的な目を持った妖怪のエピソードが描かれています。ここでは、肝試しに向かった男が、両手に目を持つ老人の化け物に襲われるという内容が語られています。男は最終的に近くの寺に逃げ込むが、その事件を通じて手の目の恐ろしさが伝えられています。

伝説的なエピソード

岩手県に伝わる民話には、手の目に類似した妖怪の話もあります。ある旅人が夜に野原を歩いていたところ、両手に目がある盲人に遭遇します。盲人が探し物をしている姿に驚いた旅人は逃げ出しますが、その盲人は悪党に殺されたため、手の目として現れたという背景が語られているのです。このような怪談は、手の目に特有の背景を与え、恐れられている理由を深く掘り下げるものとなっています。

手の目の象徴

妖怪研究家の多田克己によれば、手の目は「化けの皮がはげる」という遊び心が含まれて描かれた可能性があるとしています。目がついた手を上げる姿は、悪事やイカサマを暴露することを示唆するとされ、「手目を上げる」という言葉に繋がると考えられています。また、坊主頭は「はげる」ことに結びつき、勝負に負けるという意味も持っているとのことです。このような言葉遊びや象徴的な意味合いが、手の目に厚い文化的背景を与えているのです。

くらやみ目との関係

手の目に類似する妖怪として『くらやみ目』が存在します。両膝に目があるという設定があり、暗闇でも歩ける能力があるとされています。しかし、この妖怪の詳細は本来存在しない妖怪伝承を幅広く創作した著者によるものと考えられているため、純粋な伝説としての存在はあまり確かではありません。

手の目は、江戸時代の日本における妖怪文化を象徴する存在であり、今日まで続く妖怪信仰の一端を担っています。その不思議な存在感と不気味さは、今もなお多くの人々の記憶に残ることでしょう。

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