拝師

中国の伝統的な師弟関係「拝師」とは

「拝師（はいし、ぱいしー）」とは、中国の芸能や武術の世界において、師匠と弟子が擬似的な親子関係を結ぶ制度です。この制度は単なる技術伝承の枠を超え、師弟間の深い絆と、それに伴う責任や義務を生み出します。現在でも「拝師」の儀式を通して入門を認める流派が存在し、武侠小説などにも頻繁に登場する、中国文化を理解する上で重要な要素です。

擬似的な家族関係

「拝師」によって結ばれる師弟関係は、単なる教師と生徒の関係とは異なります。師匠は「師父（しふ）」と呼ばれ、弟子にとっては父親同然の存在とみなされます。そのため、弟子は師父に対して深い尊敬の念を抱き、師父の教えに忠実に従うことが求められます。また、一度師父と弟子関係を結ぶと、容易には解消できないという特徴があります。師父を勝手に変えることは、実の父親を変えることに等しい行為とみなされ、非常に非難されるべき行為とされました。同様に、師匠と弟子の間の恋愛関係は、近親相姦に匹敵するほど不道徳な行為として認識されていた時代もありました。

現代における「拝師」

現代中国では、「拝師」の儀式を経ていない学習者は、指導者を「師父」と呼ぶことは許されず、「老師（ろうし）」と呼びます。「拝師」を経たかどうかは非常に重要な問題であり、教えられる内容や扱いが大きく異なることが一般的です。また、師父となる者は、弟子を受け入れる際に厳格な選考や審査を行うことがあります。これは、弟子が師の教えを正しく継承するに値するかどうかを見極めるためです。

師父の家族

師父の妻は「師娘（しじょう）」または「師母（しぼ）」と呼ばれ、弟子にとっては母親同然の存在です。「師匠の娘」という意味ではないので注意が必要です。中国語の「娘」は、日本語とは少しニュアンスが異なり、「高貴な女性」という意味合いを持っています。現代中国では「師母」という表現が一般的に用いられます。

師父の兄弟弟子

自分の師父の兄弟弟子は、それぞれ「師伯（しはく）」、「師叔（ししゅく）」と呼ばれます。師父の兄弟子にあたる人物が「師伯」、師父の弟弟子にあたる人物が「師叔」となります。これらは、本人にとって伯父や叔父にあたる存在であり、実際の年齢は関係ありません。そのため、師父よりも年下の師伯や、自分よりも年上の師叔がいることもあります。

師父の師父

師父の師父は「師爺（しや）」と呼ばれ、その道における祖父に当たる存在です。また、師爺の師父は「大師父（だいしふ）」と呼ばれます。

同門の兄弟弟子

同じ師父を持つ弟子同士の関係は、実の兄弟姉妹と同等に見なされます。自分より先に「拝師」を済ませた者は「師兄（しけい）」、後から「拝師」した者は「師弟（してい）」となります。女性の場合はそれぞれ「師姉（しねい、師姐）」、「師妹（しまい）」と呼ばれます。年齢は関係なく、自分より年下の師兄がいることもあります。

弟子と徒弟

指導者に対し「拝師」を済ませた者は「徒弟（とてい）」または「弟子（でし）」と呼ばれます。指導者は「拝師」を受け入れた弟子に対し、実子のように愛情を持って育てます。また、弟子が不義理を行った場合には、破門することもできます。流派や指導者によって異なりますが、「入室（内弟子）」を許された者が「弟子」、それ以外は「徒弟」と呼ばれることが多いです。また、「拝師」を許されていない学習者は「学生」と呼ばれます。最高位の弟子は「大弟子」と呼ばれ、師に次ぐ扱いを受けます。

拝師と相声

中国の伝統的な話芸である相声（漫才）の世界でも「拝師」の制度が継承されています。清末以来、歴代の「拝師」による師承関係が続いています。

このように「拝師」は、単なる技術伝承だけでなく、道徳や倫理観、人間関係の構築といった、中国文化の根幹をなす要素を内包しています。これらの知識は、中国文化への理解を深める上で非常に重要となります。

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