拡大自殺

拡大自殺：自己と他者の生命を奪う行為

拡大自殺とは、自身による殺人行為と、それに続く、あるいは同時に行われる自殺行為を指します。加害者にとって、自殺は犯行の最終段階、あるいは犯行と不可分の一部と言えるでしょう。

拡大自殺に該当するケースは多様であり、明確な定義は未だに定まっていません。例えば、全く面識のない人を殺害した後、自殺するケースや、嫉妬心から相手を殺害して自殺するケース、愛する人を殺害し、自分も命を絶つケースなどが挙げられます。さらに、自身と共に家族も死なせることを望み、家族を殺害した後に自殺するケース（乳幼児殺害を含む）も含まれます。これらの行為において、自殺が未遂に終わるケースも少なくありません。

英語圏では、extended suicideに加え、murder-suicideやhomicide-suicideといった用語も用いられ、ほぼ同義と捉えることができます。日本では、上記のケースの一部は「無理心中」と呼ばれることもあります。無理心中は、拡大自殺の一部を包含する、より広義の概念と言えるでしょう。

拡大自殺の定義：多角的な視点

拡大自殺を定義づける上で、いくつかの基準が提案されています。それは、

1. 本人の明確な死の意志
2. 相手の同意なく、1名以上を自殺行為に巻き込むこと
3. 殺人という犯罪行為と自殺行為が同時、または連続して行われること
4. 自己中心的な動機ではなく、利他的、もしくは偽利他的な動機が背景にあること
5. 犯罪の結果について十分な熟慮を経ずに、自発的に行動していること

これらの要素が複合的に絡み合うことで、拡大自殺が成立すると言えるでしょう。

ただし、無関係な他者を殺害し、警察官に射殺されることで自殺を図るケースは「間接自殺」や「警察による自殺（suicide by cop）」と呼ばれ、拡大自殺とは区別されます。これは、自殺の手段として警察官による射殺を意図的に利用している点で、拡大自殺とは異なる機序を持つと考えられるためです。

拡大自殺という概念は古くから存在し、1908年のNackeによるドイツ語論文が、この用語が用いられた最古の文献とされています。

各国における社会問題化：アメリカと日本

拡大自殺は、アメリカと日本で特に社会問題化しています。

アメリカ合衆国

アメリカでは、1990年代以降、銃器を用いた乱射事件において、犯人が警察官に射殺されることを望み、自殺を図るケース（suicide by cop）が社会問題となっています。銃器の容易な入手可能性と、警察官を自殺の手段として利用するという特殊な状況が、この問題を深刻化させています。

日本

日本では、2000年代以降、拡大自殺が社会問題として認識されるようになりました。2021年の北新地ビル放火[[殺人事件]]を例として、読売新聞は、附属池田小事件、大阪個室ビデオ店放火事件、川崎市登戸通り魔事件、京王線刺傷事件などを拡大自殺の事例として報道しました。これらの事件は、犯行後の自殺、もしくは犯行と同時に行われた自殺という共通点を持っています。

さらに、犯行直後に自殺する殺人事件や、「死刑判決を受けたい」「刑務所に服役したい」といった動機による殺人事件も、拡大自殺と関連付けて議論されるケースがあります。これらの事件は、必ずしも上記の定義に完全に合致するとは限りませんが、拡大自殺と類似した精神構造を持つ可能性が示唆されています。

まとめ：複雑な問題への多角的な理解

拡大自殺は、複雑な心理的背景と社会的な要因が絡み合った、非常に難しい問題です。この問題を理解するためには、医学、心理学、社会学、そして法学といった多様な専門分野からのアプローチが必要不可欠と言えるでしょう。本稿では、拡大自殺の定義や事例、各国での社会問題化について解説することで、この問題への理解を深める一助となることを目指しました。

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