旧ユーゴスラビア

旧ユーゴスラヴィア とは、広義にはかつてユーゴスラビアという国名を持っていた地域全体、狭義には特に1945年から1992年にかけて存在したユーゴスラヴィア社会主義連邦共和国を指す通称です。この国家は、現在のスロベニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、セルビア、モンテネグロ、北マケドニア、そして一部から国家としての承認が得られていないコソボの七つの地域を含んでいました。

この「旧ユーゴスラヴィア」という呼び方は、主に1992年にセルビアとモンテネグロが樹立したユーゴスラビア連邦共和国を「新ユーゴ」と呼んで区別するために用いられました。つまり、「旧ユーゴ」は、より広範な民族と地域を包含していた、社会主義体制下の連邦国家（ユーゴスラヴィア社会主義連邦共和国）を指す場合が一般的です。

ユーゴスラヴィア社会主義連邦共和国は、第二次世界大戦後に成立しました。ヨシップ・ブロズ・チトーの指導のもと、東西冷戦下においてどちらの陣営にも属さない独自の路線を進み、国内では複数の共和国と自治州による連邦制が敷かれ、多様な民族が共存していました。

しかし、1990年代に入ると、連邦を構成する共和国間で民族主義が高まり、連邦からの分離独立の動きが活発化しました。スロベニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、北マケドニアが相次いで独立を宣言したことで、この連邦国家は解体へと向かいました。この解体過程は紛争を伴い、地域に大きな影響を与えました。1992年に成立した「新ユーゴ」ことユーゴスラビア連邦共和国も、2003年にセルビア・モンテネグロに改称した後、2006年に解消され、セルビアとモンテネグロはそれぞれ独立国家となりました。コソボは2008年に独立を宣言しましたが、国際的な承認は限定的です。

このように、「旧ユーゴスラヴィア」という言葉は、単に過去の特定の国家を指すだけでなく、その後の地域の政治的変容、民族間の関係、そして独立国家群の形成という複雑な歴史的プロセス全体を包含する概念となっています。特に、社会主義連邦共和国時代の体制や社会、そしてその解体とそれに続く出来事を語る上で不可欠な用語です。

歴史的には、ユーゴスラビア社会主義連邦共和国よりもさらに以前、第一次世界大戦後に成立したユーゴスラビア王国（当初はセルビア人・クロアチア人・スロベニア人王国）が最初のユーゴスラビア国家でした。しかし、「旧ユーゴスラヴィア」という言葉が日常的に指すのは、ほとんどの場合、社会主義連邦共和国の時代とその領域です。

この地域が経験した国家の解体と再編は、現代世界の国家、民族、国境の問題を考える上で重要な事例であり、「旧ユーゴスラヴィア」という言葉は、この一連の出来事と地域全体を包括的に理解するためのキーワードと言えます。

もう一度検索