本多孝好

本多孝好（ほんだ たかよし）は、1971年3月8日に東京都で生まれた日本の小説家、推理作家です。慶應義塾大学法学部を卒業しています。

幼少期から読書を愛し、成長とともに江戸川乱歩、赤川次郎といった国内ミステリー、さらには半村良、村上春樹、村上龍などの多様なジャンルに親しんできました。大学時代は弁護士を志し法学部に学びますが、小説家としての道を意識する決定的なきっかけが訪れます。同じ学部に在籍していた作家・金城一紀氏から、卒業文集に掲載する小説の執筆を依頼されたことです。これを機に創作活動に足を踏み入れ、金城氏とは互いに作品を見せ合い、切磋琢磨する関係を築きました。弁護士と作家の間で心が揺れ動く中で、1994年に「眠りの海」で第16回小説推理新人賞を受賞。この栄誉が、本多氏が小説家として生きていく決意を固める大きな後押しとなりました。

新人賞受賞から約5年の歳月を経て、1999年に短編集『MISSING』で単行本デビュー。この作品集には、受賞作「眠りの海」のほか、受賞後に発表された短編や書き下ろしが収録されており、刊行されるやいなや文芸界で高い評価を獲得します。特に、『このミステリーがすごい! 2000年版』で国内編のトップ10にランクインしたことで広く注目され、多くの出版社から執筆依頼が舞い込むこととなりました。

デビュー当初、本多氏の作品には共通する根源的なテーマがありました。それは「生と死」です。物語の基底には、死への強い恐怖心と、それにどう向き合い、乗り越えるための覚悟を持つか、という問いかけが流れていました。短編集『MISSING』や『FINE DAYS』などに収録された初期の作品群には、その傾向が顕著に見られます。しかし、創作活動を続ける中で、本多氏は新たな表現領域を模索し始めます。時代や社会の問題に目を向けた長編『正義のミカタ I'm a loser』を発表したり、代表作の一つである『MOMENT』から7年後の世界を描いた続編『WILL』では、登場人物たちが現実世界と同じ時間軸を生きているかのような感覚を読者に与えたいという独自の試みを行ったりしました。また、エンターテインメント性を追求した『ストレイヤーズ・クロニクル』シリーズでは、イラストレーターの田島昭宇氏による魅力的な挿絵を取り入れるなど、小説の枠を超えた表現にも挑戦しています。近年では、デジタル遺品を巡るミステリーを描く『dele』シリーズなど、現代社会が抱える新たな問題にも鋭く切り込んでいます。

本多氏の作品は、その優れた物語性から度々映像化されています。2008年に短編「イエスタデイズ」が自身の作品として初めて映画化されて以降、2014年から2015年にかけては『真夜中の五分前』、『ストレイヤーズ・クロニクル』、『at Home』といった代表作が相次いで映画化され、多くの観客を惹きつけました。さらに、2018年にテレビ朝日で放送された連続ドラマ『dele』では、原作を提供するだけでなく、自ら原案を担当し、一部脚本も執筆するなど、映像作品のクリエイターとしてもその才能を発揮しています。

ミステリーを軸としながらも、「生と死」という普遍的な問いから、現代社会の様々な問題、そして純粋なエンターテインメントまで、常に新しいテーマと表現形式に挑み続ける本多孝好氏。繊細な心理描写と骨太なストーリーテリングで紡がれる物語は、読者に深い感動と強い印象を与え、映像化作品を通して幅広い層に支持されています。その探求心は、今後の作品世界にもさらなる広がりをもたらすことでしょう。

代表的なシリーズ作品:

MOMENTシリーズ: 『MOMENT』、『WILL』、『MEMORY』など
ストレイヤーズ・クロニクルシリーズ: ACT-1, ACT-2, ACT-3
* deleシリーズ: 『dele』, 『dele2』, 『dele3』

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