武漢肺炎

武漢肺炎とその名称の背景

武漢肺炎、または武漢ウイルスは、2019年に発生した新型コロナウイルス感染症（COVID-19）に関連する呼称の一つです。この名称は、中国の湖北省武漢市で初めてウイルスが発見されたことに由来しています。しかし、この呼び方は国際的に多くの論争を招いています。

WHOの立場

世界保健機関（WHO）は、2015年に新たに発見された病気の名称に地名を使わないというガイドラインを定めました。このガイドラインの趣旨は、病名が特定の地域に結びつくことによって社会的スティグマや差別を助長しないようにすることです。それに基づき、新型コロナウイルスの正式名称についてもこの考え方が反映されており、武漢肺炎や武漢ウイルスといった名称の使用は推奨されていません。WHOは、感染症についてより中立的かつ客観的な名称を使うことを促しており、国際赤十字赤新月社連盟などとも協力して、新型コロナウイルス関連の適切なコミュニケーション方法を広めています。

中国語圏の状況

中国政府は「新型コロナウイルスは中国起源ではない」との立場を取っており、武漢肺炎の呼称には反対しています。しかし、8台湾や香港では、武漢肺炎やその短縮形である武肺という呼称が広く使用されています。特に台湾では、公式機関でもこの名称が使われることが多いです。興味深いことに、感染の初期段階では中国のマスメディアでも武漢肺炎と呼ばれた事例がありました。

日本における状況

日本政府はWHOの指針に従い、正式には「新型コロナウイルス」「新型コロナウイルス感染症」または「COVID-19」といった名称を使用しています。そのため、「武漢肺炎」や「武漢ウイルス」という呼称は公式には採用されていません。特に東京都では、2020年に発生したデモにおいて武漢菌に関連する発言が不当な差別として認定されています。しかし、政治的背景から中国共産党を批判する保守派の一部は、武漢や中国を含む名称を使うことがあります。例えば、自由民主党の議員が武漢熱と呼ぶべきだという意見を述べたり、麻生太郎副総理が武漢ウイルスという言葉を使用したりすることがありました。

民間においても、武漢肺炎と呼ぶことが差別を助長するという意見が多く、一般的にはこの名称の使用が論争の的となっています。産経新聞など一部のメディアではこの名称が使用され続けていますが、新聞広告などではその表現を伏字にする事例も見受けられます。特定の書籍広告では「武漢肺炎」が通らず、他の表現を用いることを強いられました。

アメリカ合衆国における状況

アメリカでは、第45代大統領ドナルド・トランプが中国政府に対抗する形で、ウイルスを「中国ウイルス」と呼称したことが波紋を呼びました。アジア系アメリカ人コミュニティは、この呼称が差別を助長するとの懸念を表明しました。トランプ政権下では、「武漢ウイルス」といった名称の使用を支持する声もありましたが、政権交代後のバイデン大統領はそのような呼称を禁止する大統領令に署名しました。

その他の呼称

イタリアの某専門家は、「中共ウイルス」という名称を提案し、一部メディアで使用されることもあります。また、この感染症は「コロナ」とも呼ばれますが、この場合にも商標や人名に風評被害が発生することがあります。

このように、武漢肺炎という呼称は世界中で様々な見解や反応が存在し、引き続き社会的な議論の重要なテーマとなっています。

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