津軽の太鼓

津軽の太鼓：本所七不思議に潜む静かなる怪異

「津軽の太鼓」は、江戸時代の本所（現在の東京都墨田区）を舞台にした、本所七不思議と呼ばれる奇談・怪談の一つです。しかし、他の物語に比べて怪異な起伏が少ないため、七不思議から省かれることもあります。この物語は、旧弘前藩津軽越中守の屋敷にあった火の見櫓にまつわるものです。

太鼓が知らせる火災

物語の舞台となるのは、江戸時代、本所にあった弘前藩津軽越中守の屋敷です。この屋敷には火の見櫓が設置されていましたが、通常、火災を知らせるために火の見櫓では板木が用いられるのに対し、この屋敷の櫓には板木の代わりに太鼓がぶら下げられていました。そして、火事が発生すると、その太鼓が打ち鳴らされたのです。

なぜ、この屋敷の火の見櫓だけが太鼓を使用していたのか、その理由は誰にもわかっていません。この謎めいた太鼓の存在が、「津軽の太鼓」という怪談の核となっています。

また、別のバージョンとして、越中守の屋敷の火の見櫓で板木を叩くと、太鼓の音が響き渡るという物語も存在します。この音の出所が不明である点も、怪談としての雰囲気を醸し出しています。

本所深川火事場見廻役との関連

興味深いことに、弘前藩主家の分家である黒石津軽家の当主、津軽著高と、弘前藩主家相続前に黒石津軽家の当主であった津軽寧親は、本所深川火事場見廻役を務めています。この役職が、物語にどのような影響を与えているのか、あるいは全く関係がないのかは定かではありません。

静かに語りかける怪異

「津軽の太鼓」は、派手な演出や恐ろしい化け物が登場するような怪談ではありません。しかし、理由のわからない太鼓の存在や、板木を叩くと太鼓の音がするという不可解な現象は、人々の想像力を掻き立て、静かに、しかし確実に恐怖を植え付けます。

本所七不思議の中でも、比較的マイナーな存在である「津軽の太鼓」ですが、その背景にある歴史や、人々の生活に根ざした信仰を読み解くことで、より深く理解することができるでしょう。静かな怪異譚として、今もなお語り継がれています。

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