熱性けいれん

熱性痙攣（ねっせいけいれん）

熱性痙攣は、主に生後6ヶ月から5歳（60ヶ月）までの乳幼児期に見られる、発熱時に引き起こされる痙攣発作です。この発作は脳の一時的な機能的な乱れによって生じるものであり、恒常的な脳の病気である「てんかん」とは異なる疾患として扱われます。男女による発症率に大きな差はありません。

定義と分類

発熱に伴って痙攣が起きた場合、広義には熱性痙攣と定義されます。しかし、臨床現場では、その特徴によって「単純熱性痙攣」と「複雑熱性痙攣」に分類され、通常は単純熱性痙攣を狭義の熱性痙攣として扱うことが多いです。

単純熱性痙攣: 比較的短時間（多くは5分以内）で終息し、発作の形に左右差がなく、全身が硬直したり（強直）、手足がリズミカルにピクついたりする（間代）といった全身性の発作です。発作後に意識が比較的速やかに回復するのが特徴です。
複雑熱性痙攣: 上記の単純熱性痙攣の基準に当てはまらないものを指します。例えば、発作が15分以上続く場合、体の一部だけが痙攣する場合、左右差がある場合、24時間以内に複数回起きる場合などです。

発症の要因

単純熱性痙攣の主な要因は、脳の発達段階にある乳幼児期という「年齢」にあると考えられています。成長途上にある脳は、体温の上昇によって生じる興奮を抑える機能がまだ十分ではないため、痙攣を起こしやすい状態にあると考えられています。これは動物実験でも確認されています。

一方、複雑熱性痙攣の場合は、熱性痙攣以外の要因が関わっていることがあります。可能性のある原因疾患としては、てんかん、脳の形態異常、皮膚や神経に異常をきたす疾患（神経皮膚症候群）、代謝に関する疾患（神経代謝疾患）などが挙げられます。

予後と再発

単純熱性痙攣は、多くの場合で予後が良好です。通常は6歳になる頃までには見られなくなり、一部で小学校高学年まで発症するケースもあります。

初めて単純熱性痙攣を起こしたお子さんが、再び熱性痙攣を起こす確率は約3分の1程度とされています。しかし、3回以上繰り返す場合は、その後も繰り返しやすい傾向があります。

熱性痙攣を繰り返すことの影響については、かつては懸念される声もありましたが、現在では数回程度の、短い時間の発作が知能の発達やその後のてんかん発症率に与える悪影響は少ないと考えられています。ただし、発作を何度も繰り返した場合の長期的な影響については、まだ見解が統一されていない側面もあります。しかし、これは繰り返しによる悪影響が限定的であることの裏返しとも言えます。

てんかんへの移行については、単純熱性痙攣を経験した小児は、そうでない小児に比べててんかんを発症する可能性がわずかに高いという報告がありますが、その差はごくわずかです。

複雑熱性痙攣も、多くは予後良好ですが、もし背景に原因疾患がある場合は、その疾患の予後に準じることになります。

治療と予防

熱性痙攣の基本的な対応は「予防」です。過去に熱性痙攣を起こしたことがあるお子さんが発熱（目安として37.5℃から38.0℃）した場合、痙攣予防薬の坐薬（ジアゼパム製剤、例：ダイアップ）を使用することがあります。この坐薬は、通常8時間の間隔をあけて2回投与することで、血中濃度が長時間保たれ、痙攣を予防する効果が期待されます。ただし、解熱剤を使用しても熱性痙攣の発症率には影響しないとされています。

一度だけ熱性痙攣を起こしただけであれば、その後再発しない可能性も高いため、多くの場合は2回目や3回目以降の発症を経験した場合に、医師と相談の上で坐薬による予防を開始することが多いです。また、全体的に予後が良好であることから、薬による予防を行わないという選択肢もあります。

発作時の対処法

もしお子さんが痙攣発作を起こしてしまった場合は、落ち着いて以下の対応をとりましょう。

1. 安全な体位: まず、お子さんを横向きに寝かせます。これは、嘔吐した場合に吐物が気道に入り込むのを防ぐためです。
2. 口の中に何も入れない: むやみに口の中に手やタオルなどを入れることは大変危険です。窒息や口内の損傷を招く可能性があるため、絶対に避けてください。
3. 観察と計測: 発作が始まった時間を正確に把握し、痙攣が続いている時間を測ります。また、どのような痙攣なのか（全身か、一部か、左右差はどうか）など、発作の様子を観察します。これは医療機関を受診した際に伝える重要な情報となります。
4. 医療機関の受診: 痙攣が5分以内に治まり、その後意識が回復した場合は、落ち着いてから医療機関を受診し、状況を説明してください。熱性痙攣であることを確認し、他の病気（てんかんなど）の可能性がないか診察を受けましょう。
5. 救急要請: 痙攣が5分以上続いている場合や、呼吸の状態がおかしい、顔色が非常に悪いなど、明らかに様子がおかしい場合は、迷わず救急車を呼んでください。

熱性痙攣は多くの乳幼児が経験する比較的頻度の高い発作ですが、適切な知識を持ち、冷静に対応することがお子さんを見守ることが大切です。

出典：

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