状況判断

状況判断（じょうきょうはんだん、英語: Estimate of situation）は、作戦部隊の指揮官が今後の行動方針を決定するために用いる、系統立てられた思考の過程を指します。これは、与えられた任務を達成するために、部隊が置かれている軍事的な状況を、論理的な分析と推論に基づいて正確に把握することを目的としています。

概説

状況判断は、作戦行動を成功させるために必要な様々な分析に基づいて行われます。ここで言う「状況」とは、主にその時点での戦闘に関する様相を指し、具体的には「任務判断」「地形判断」「敵情判断」という三つの要素から構成されます。これら複数の状況をまとめて「情勢」と呼ぶこともあります。作戦指揮官にとって、置かれた状況を的確に把握することは、効果的な意思決定を行い、部隊を適切に指揮するために極めて重要です。この思考プロセスを定型化することは、戦術教育や実際の作戦遂行において大きな意義を持ちます。

判断に至る過程で行われる思考は「分析」または「研究」と呼ばれます。この分析は、往々にして情報が完全に揃っていない不完全情報という状況下で進められます。そのため、不足している情報を補うために一時的に合理的な仮定である「設想」を設定して分析を進める場合があります。情報収集が進むにつれて、得られた新たな情報がこの設想と置き換えられ、分析の精度が高められていきます。分析を経て状況について判断が下された後、その状況判断に基づいて具体的な行動方針、すなわち「決心」が行われ、部隊の指揮へと繋がります。

状況判断において特に重要な着眼点としては、以下の点が挙げられます。

不完全な情報だけで敵の意図などを性急に決めつけないこと。
根拠の薄い憶測や不適切な仮定に惑わされず、常に合理的な思考に基づいて判断を進めること。
* 致命的な見落としがないよう、漏れなく組織的に分析を行うこと。

任務判断

状況判断の出発点となるのが任務判断です。これは、上級部隊から与えられた任務の真の意図や背景を深く分析し、その本質的な目的を明らかにすることです。例えば、「支隊として主力を掩護せよ」という任務が与えられた場合でも、達成すべき具体的な目標は、主力の状況、自部隊と敵部隊の配置、地形、そして敵の状況によって変化し得ます。与えられた任務の目的を正確に理解することで、部隊に真に求められている戦果が何であるかを認識できます。この判断は、その後の部隊の行動方針の方向性を定めるだけでなく、状況が急変するような緊急事態に直面した際にも、柔軟かつ適切な方針転換に対処するための基礎となります。

地形判断

次に、状況判断には地形判断が不可欠です。これは、軍事地理学的な知識を活用し、作戦行動が展開される地域の地形や地物を詳細に分析することです。分析を通じて、地形の軍事的な特性や、作戦遂行にとって特に重要な地点である「緊要地形」を判断します。例えば、広い射界や良好な視界が得られる高地、部隊の移動を妨げる河川にかかる橋、部隊の展開や補給の要となる港湾や空港、あるいは政治・経済の中心である都市などは、一般的に緊要地形と考えられます。また、これらの重要な地点を結ぶ道路や鉄道といった交通網も、部隊の接近経路、退却路、あるいは後方との連絡線として利用される可能性があるため、「要線」としてその重要性が判断されます。これらの地形に関する判断は、部隊が攻撃すべき目標を選定する際や、防御陣地を構築する際に極めて大きな影響を与えます。

敵情判断

最後に、状況判断を構成する重要な要素が敵情判断です。これは、情報活動を通じて得られたデータに基づいて、敵部隊の状況を分析し判断することです。ここでいう「敵情」には、敵部隊の名称、兵員の数、装備の性能、武器弾薬の状況、部隊の士気、そして最も重要な敵の作戦行動など、敵の戦闘力を構成する様々な要素が含まれます。敵情判断は、特に不確実な要素が多く含まれるため、正確な情報を迅速に収集し、情報面での優位性を確立することが非常に重要となります。特に流動的な敵の作戦行動については、敵が取り得る可能性のある全ての行動パターンをリストアップし、それらの可能性と、実際にそれが起こる蓋然性（確率）とを区別した上で、それぞれを詳細に分析して判断が行われます。敵情判断の過程では、敵を過小評価してしまう危険と、逆に過大評価してしまうという二つの思考上の陥りやすい罠があるため、注意が必要です。この敵情に関する判断は、作戦計画の基本的な考え方や具体的な内容を定める上で特に重要であり、作戦方針そのものの決定を左右するほどの影響力を持っています。

陸上自衛隊における状況判断

陸上自衛隊が作成する教範の中で最も重要な「野外令」には、指揮官による状況判断について詳細な記述が盛り込まれており、その重要性が明確に位置づけられています。

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