白い服の男

白い服の男

星新一の短編SF小説『白い服の男』は、1968年9月に発表され、以降も多くの読者に愛され続けています。この作品では、世界大戦後の恐ろしい未来の社会を描き出しています。主人公は、白い制服を着た特殊警察機構89605分署の署長であり、彼の日常は市民の監視と取り締まりに明け暮れています。

この特殊警察は、法律の枠を超えた存在であり、無差別に市民を盗聴し、密告制度を通じて監視を行います。しかし、その任務は彼らが用意した特定の犯罪だけを対象にしており、それ以外の凶悪犯罪には目を瞑ります。主な取り締まり対象は、ただ一つの言葉、「セ」のみです。この「セ」とは、戦争を指しており、この言葉が恐れられる世界では、戦争の概念を完全に排除しようとしています。

特殊警察に捕らえられた者たちは、徹底的に拷問を受け、その後公開処刑される運命にあります。この無惨な行為は、権力が持つ圧倒的な力の象徴であり、「セ」に関するすべての証拠を消し去ろうとする圧力を物語っています。また、管轄下にある閉鎖図書館では、過去の文献やデータが書き換えられたり焼却されたりしており、古戦場や城跡の遺物も処分され、新たな歴史が捏造される様子が描かれています。

主人公は、職務中に自らの白い制服を見つめながら、地球を救う医師に戻りたいという望みを持ちつつ、市民を守るための職務に誇りを感じています。この彼の葛藤は、平和のために戦争を完全に否定する社会が持つ恐ろしさを象徴しています。

作品は、星新一が記したエッセイ「平和学」の考えを反映しています。戦争というものを知らないほうが良いと説き「戦争の習慣」を断ち切ることの難しさを指摘しています。彼自身が平和を保つためには、非常に高い精神的・物質的な努力が必要であると示唆し、戦争を忘却することが果たして本当の平和をもたらすのかという問いを投げかけています。

この物語は、1974年に西ドイツでドラマ化され、その後2022年にはNHKBSプレミアムで新たなドラマ化がなされました。また、1968年には早川書房から刊行された『午後の恐竜』や、その後の文庫版『白い服の男』にも収録されています。これらの作品は、星新一の持つ独特の視点とメッセージ性を伝え続け、多くの読者に影響を与えています。

最後に、『白い服の男』はただの短編SF小説に留まらず、社会の問題や歴史の認識について考えさせられる重要な作品として位置づけられています。

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