直腸検査

直腸検査（ちょくちょうけんさ）とは、医療または獣医療の現場で実施される重要な触診法の一つです。この検査は、直腸診（ちょくちょうしん）と称されたり、さらに直検（ちょっけん）と略されたりすることもあります。rectal palpation や rectal examination という英語名が示す通り、直腸内に直接触れることで体内の情報を得る診断手法です。

対象となるのは、ヒトだけでなく、ウシやウマのような大型動物、そして一部の中小型動物など、幅広い動物種です。検査の具体的な方法は、対象となる個体の大きさに応じて異なります。ヒトに対しては主に指を直腸内に挿入して行われますが、ウシやウマといった大型動物の場合には、獣医師は手や腕全体を直腸内に挿入し、より広範な領域を触診します。

直腸は骨盤腔の比較的奥深くに位置しており、その周囲には雌では子宮や卵巣、雄では前立腺や精嚢などの生殖器、膀胱や尿道といった泌尿器の一部、そして結腸の終端部など、重要な臓器が近接しています。直腸検査は、これらの近接する臓器の状態を、直腸の壁越しに触れることで評価することを目的としています。触診によって、臓器の大きさ、形、硬さ、位置関係、表面の状態（滑らかさや凹凸）、異常な腫れやしこり、痛みの有無、さらには直腸内の内容物（便など）の状態などを感知することができます。

この検査が利用される主な目的は多岐にわたります。消化器系および生殖器系の臓器における形態的な異常の診断はその一つです。例えば、直腸壁や周辺組織の腫瘍、炎症による壁の肥厚、異物や結石、または臓器の不自然な位置や癒着などを触知することができます。また、妊娠しているかどうかの診断は、この検査の重要な応用例です。

特に獣医療の分野、中でもウシやウマなどの大型動物の診療においては、直腸検査が非常に重要な役割を果たします。家畜の繁殖管理において不可欠な技術とされており、日常的かつ頻繁に実施されています。具体的には、雌動物の発情周期を把握し、卵巣における卵胞や黄体の発達状態を触診することで、最も妊娠しやすい最適な交配時期を判断するために用いられます。また、不妊の原因を特定するための繁殖障害の診断においても欠かせない検査です。子宮の炎症（子宮内膜炎や子宮蓄膿症）、卵巣機能の異常（卵胞嚢腫、無発情など）、子宮や卵管の形態異常などを触診で評価し、適切な治療方針を立てるための重要な情報を得ることができます。さらに、大型動物における妊娠診断は、直腸検査によって比較的早期かつ確実に行うことが可能です。子宮の大きさや形状の変化、胎膜の滑り、胎子の存在などを触知することで、妊娠の有無やその進行段階を判断します。

このように、直腸検査は、単に直腸そのものを調べるだけでなく、その周辺に位置する様々な臓器の状態を非侵襲的（比較的）に評価し、幅広い疾患の診断や生理的な状態の確認に寄与する、医学・獣医学における基本的ながらも非常に価値の高い触診技術と言えます。特に大型動物の繁殖分野においては、日常診療に不可欠な手段として位置づけられています。

ただし、この検査は触覚に依存するため、実施者の熟練度が結果の精度に大きく影響します。また、動物によっては保定が必要となる場合があり、実施には細心の注意と専門的な知識が求められます。

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