翔んで埼玉

翔んで埼玉

『翔んで埼玉』は、魔夜峰央による日本の漫画作品です。1982年から1983年にかけて『花とゆめ』にて連載されました。埼玉を徹底的に自虐的に描いた内容が話題となり、連載当時は未完に終わったものの、後に実写映画化され、大ヒットを記録しました。

制作背景

作者の魔夜峰央は、元々新潟県に在住していました。しかし、仕事の都合で東京への引っ越しを検討した際、『パタリロ!』の編集長から西武線沿線を勧められます。1978年頃、魔夜は所沢市へ転居しますが、当時の所沢はまだ発展途上であり、編集者との近すぎる距離もストレスとなり、その憂さ晴らしとして本作を執筆しました。

埼玉県を「おちょくる面白さ」を狙ったものの、連載中に我慢の限界を感じた魔夜は神奈川県横浜市へ転居。連載は中断され、「未完の漫画作品」となりました。魔夜は、連載中断の理由について、埼玉県に対する悪意のある作品になってしまう懸念と、自身の中に埼玉をディスる部分がないことを挙げています。また、当時の状況を「一時的な気の迷い」「錯乱していた」と振り返っています。

作中では埼玉県だけでなく、茨城県も「日本の僻地」として描かれています。これは、魔夜の妻が茨城県出身であることから、「身内の地元ならば少しぐらいおちょくってもいい」と考えたためです。ただし後日、妻が親戚からクレームをつけられたとのことです。

反響

1986年に短編集に収録される形で刊行されたものの、当時は話題になりませんでした。しかし、2015年に魔夜の娘である山田マリエがTwitterで言及したことをきっかけに、SNSで注目を集めるようになります。龍谷大学講師の中井治郎が本作を詳細に解説したことで、その衝撃的な内容が拡散され、大きな話題となりました。

宝島社の編集者がSNSでの盛り上がりを見て復刊を企画し、2015年12月に宝島社から復刊されました。テレビ番組『月曜から夜ふかし』で取り上げられたこともあり、さらに大きな反響を呼びました。初版は2万5000部でしたが、反響の大きさから20万部へと増刷されました。

2016年2月には発行部数が30万部を突破し、埼玉県各市の市長からコメントが寄せられました。3月には55万部を突破し、埼玉県知事も肯定的なコメントを出しています。魔夜は、30年以上経てからの好反響について「なぜ売れているのか分からない」と語っています。

復刊前、魔夜は経済的に苦しい状況に立たされていましたが、本作のヒットにより多額の印税収入を得て、借金を完済することができました。

その後も勢いは衰えず、埼玉県知事選挙や参議院補欠選挙の啓発広告に採用されたり、作中のセリフにちなんだグルメが登場したりするなど、社会現象を巻き起こしました。

2019年には実写映画化され、埼玉県民や県内自治体からも応援の声が多数寄せられました。2023年には続編も公開され、その人気は衰えることを知りません。

あらすじ

出身地によって差別が行われる架空の日本を舞台に、東京都の名門校に転入してきた美少年・麻実麗と、生徒会長・白鵬堂百美の恋と戦いを描きます。麗は実は埼玉県出身であり、差別をなくすために抵抗運動を始めます。百美も麗に惹かれ、運動を支援しますが、政界の実力者・階階堂進が差別政策を維持するために麗のグループを殲滅しようとします。

登場人物

麻実 麗（あさみ れい）
白鵬堂学院の転入生。実は埼玉県の大地主の息子で、差別をなくすために活動する。
白鵬堂 百美（はくほうどう ももみ）
白鵬堂学院の生徒会長。麗に恋心を抱き、支援する。
おかよ
麗の家政婦。
階階堂 進（かいかいどう すすむ）
自民党幹事長。差別政策を維持しようとする。
田麩（でんぶ）警部
警視庁の警官。
埼玉デューク（さいたまデューク）
伝説の埼玉県民。

用語解説

埼玉県
東京都の隣にある田舎という設定。
東京都
日本の最重要都市。
白鵬堂学院
東京都の名門校。
茨城県
埼玉県のさらに奥にある僻地という設定。
新潟県
影の総理の出身地という設定。

書誌情報

魔夜峰央『やおい君の日常的でない生活』白泉社、1986年
魔夜峰央『翔んで埼玉』宝島社、2015年
魔夜峰央（監修）『翔んで埼玉 アンソロジー 埼玉解放戦線調査報告書』宝島社、2023年

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