複数の時計

複数の時計（The Clocks）

『複数の時計』は、アガサ・クリスティが1963年に発表したエルキュール・ポアロシリーズの長編推理小説です。この作品では、探偵ポアロが様々な時計を通じて、謎に包まれた殺人事件を解決する姿が描かれています。

物語は、速記タイピストのシェイラ・ウェッブが派遣されたサセックス州のウィルブラハム・クレセントの家から始まります。シェイラが到着すると、部屋の中には無数の時計が置かれており、その中で彼女は恰幅の良い年配の男の遺体を発見します。この不気味な部屋は、時計が全て午後4時13分を指しているにもかかわらず、シェイラが到着したのは午後3時です。さらに、この時計は家の住人のものでないことが明らかになります。

突然、盲目の女性ミリセント・ペブマーシュが現れ、シェイラは驚きのあまり外に飛び出し、通りかかった男性コリン・ラムの腕に飛び込みます。コリンはMI5の特別捜査官であり、事件の手がかりを追っている人物です。彼は、死んだ男のポケットから見つかった暗号的なメモを手に、捜査に乗り出します。

警察による捜査が進む中、死体の身元が不明であることが問題となります。コリンと警部のハードキャッスルは近隣住民への聞き込みを行う中で、急にシェイラに注意を向けます。部屋にあった時計の一つに「ローズマリー」という名前が書かれており、シェイラの本名がそれであることが明らかになります。このことが彼女の行動に関与しているのか、疑念が深まります。

さらに、事件の根底には複雑な人間関係が存在し、シェイラの同僚エドナ・ブレントが何かを察知して警部に伝えようとする矢先に絞殺されるという事件も発生します。この一連の出来事から、人物たちの細かな背景が次第に浮かび上がります。特に、ミリセントの過去や家族についての秘密も語られる中、コリンはシェイラとの結婚を考えているものの、彼女の母が重要な役割を果たしていることに気づきます。

ポアロが出てくると物語はクライマックスに向かいます。彼は事件の全貌を解明し、エドナ殺害の背後にある動機を明らかにします。特に、911時代の冷戦の影響を受けた背景や、登場人物たちの間の相続争いが事件を複雑にしています。コリンとポアロの協力によって、真相が解明されるストーリー展開は、読者に緊張感を持たせます。

最終的に、登場人物たちの過去や動機が明らかになり、ポアロは自身の推理力を駆使して事件を解決へと導きます。この小説は、時間をテーマにした巧妙な仕掛けと人間ドラマが交錯し、クリスティ独自のミステリーの魅力が詰まっています。

本作は、推理小説としての魅力はもちろんのこと、描かれる人物たちの心理や人間関係の複雑さも楽しむことができる、クリスティの代表作の一つとして広く認知されています。

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