農村伝道神学校

農村伝道神学校は、東京都町田市にキャンパスを構える、日本基督教団によって認可された神学校であり、東京都からは各種学校として認可を受けています。この学校の教育は、都市部ではなく、日本の農村や地方の教会で奉仕する伝道者の育成に特化している点が大きな特色です。また、教派や文化の壁を超えたエキュメニカルな神学教育を実践するとともに、日本の歴史、特に戦争責任について深く考察し、沖縄やアジアの人々との対話を通して学びを深めることを重視しています。

設立の歩み

学校の起源は、カナダ出身の宣教師アルフレッド・ラッセル・ストーン氏に遡ります。農村に生まれ育ったストーン氏は、1926年に来日し、1954年に52歳でその生涯を終えるまで、27年間にわたり宣教師としての活動を続けました。彼は「社会的救済は、個人の救いを実現するために社会の状況を変えることを意味する」という思想を抱いており、この考えが後の神学校設立の精神的な土台となりました。1948年、学校は東京都南多摩郡日野町で産声を上げました。しかし、都市化の波に押され、開校からおよそ10年を経て、現在の町田市へと拠点を移すことになります。この移転は、経済的な自立を目指す学校の方針に基づき、日野の土地を売却した資金で、日野時代よりも遥かに広大な町田の山林を購入して実現されました。

教育の理念と特色

農村伝道神学校が目指すのは、ただ聖書や神学を学ぶだけではありません。教育の核には「農」という要素が深く関わっています。農村という現場と、そこでの宣教という視点から神学を掘り下げていきます。また、日本の戦争責任という歴史的な課題に明確に向き合うことも、重要な教育方針の一つです。大地に根差した生活や、寮での共同生活を通して培われる共同性も、この学校が大切にしている価値観です。そして、特定の教派にとらわれず、教会の一致を目指すエキュメニカルな精神も教育の根幹にあります。

教育課程と実践

学校の修業年限は4年間です。入学した学生はまず全員が2年間の「神学基礎コース」で学びの基礎を固めます。基礎コース修了後、各自の進路に応じて二つの専門コースのいずれかを選択します。「神学専門教職者養成コース」は2年間、「神学専門信徒宣教者養成コース」は1年間または2年間で設定されています。座学に加え、様々な形での実践的な学びが重視されています。教会や社会福祉施設での実習、実際の農村教会や地域社会での活動、特定の社会的課題に取り組むセンターでの研修などがカリキュラムに組み込まれています。さらに、台湾での実習など、国際的な視点を取り入れたプログラムも提供されています。

東南アジアとの繋がり

農村伝道神学校の歴史において、東南アジアとの繋がりは特筆すべき出来事です。1956年に日野で開催された東南アジア農村伝道協議会や、1959年にクアラルンプールで開かれた東アジアキリスト教協議会の創立総会において、フィリピン、タイ、韓国、台湾などアジア諸国からのキリスト教徒の間から、農村伝道神学校に農村指導者研修コースを設置してほしいという強い要望が上がりました。経済的に発展した日本の農業技術を学びたいというニーズに加え、日本の戦争責任という歴史的背景も、この要望を後押しする理由の一つでした。この要請を受け、当時の校長であった武藤健氏は、日本の戦争責任への向き合いという意味も込めて、1960年に学校内に「東南アジア農村指導者研修所」（後に東南アジア科と改称）を設立しました。しかし、学校の経営状況の悪化などもあり、最終的には当時の科長であった高見敏弘氏が独立した法人と施設を立ち上げ、「アジア農村指導者養成専門学校」へとその機能を移行させていくことになりました。

キャンパスライフ

学生の日常は、礼拝を中心とした共同生活によって形作られています。週に二度、校内の礼拝堂で学校礼拝が捧げられます。学生寮での共同生活は、人間関係を築き、互いに支え合う共同性を養う貴重な機会です。台湾の玉山神学院との交流も行われています。年間行事としては、毎年10月に学校を開放する「農伝デー」や、12月の「待降節礼拝（アドベント礼拝）」などがあります。

広大なキャンパスには、学びと生活を支える多様な施設が点在しています。実習用の農場や畑、竹林、栗林といった自然に囲まれた環境があります。校舎であるストーン記念館をはじめ、礼拝堂、食堂、学生寮、図書館といった主要な施設が揃っています。また、神学校と同じ法人によって運営されている鶴川シオン幼稚園も敷地内に併設されています。著名な関係者としては、創設者のアルフレッド・ストーン氏のほか、平良愛香氏、高柳富夫氏、池迫直人氏といった教員や、瀬戸英治氏、君島洋三郎氏、加藤久幸氏といった卒業生が挙げられます。

農村伝道神学校は、独自の教育理念に基づき、日本の農村・地方社会に根差し、歴史と向き合いながら、次世代の伝道者育成に取り組んでいます。その歴史の中で生まれた東南アジアとの繋がりは、後にアジア農村指導者養成専門学校へと発展するなど、広い視野を持つ教育機関としての側面も有しています。

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