闇に蠢く

『闇に蠢く』について

概要

『闇に蠢く』は江戸川乱歩が手掛けた長編探偵小説であり、彼の作品の中で初めての長編にあたります。この小説は1926年1月から11月まで『苦楽』に連載されたものの、最終章に至るまでには至らず、中断したままとなりました。翌1927年10月には、平凡社から出版された『現代大衆文学全集』に収録される際に結末の部分が加筆され、物語が完結しました。連載として先に発表された際には、仮題を『暗闇に蠢くもの』としながら、最終的には『闇に蠢く』というタイトルに変更されました。彼はこの作品において、「構想の無さに苦しみながらも、最終的には自分の好みの変わった味わいを表現することを目指した」と述べています。

あらすじ

物語は、「私」が10年前に偶然手にした正体不明の人物、御納戸色の原稿に基づいて語られます。洋画家の野崎三郎は、舞踏家であるお蝶を連れて長野県のS温泉、籾山ホテルを訪れます。このホテルは独特のトルコ風呂があり、一部では有名な存在です。お蝶は突如として誰かに追われる様子を見せ、ふたりの行動に緊張感をもたらします。冥界に繋がる底無し沼でお蝶が姿を消すと、三郎はその神秘的な現象に対峙することになります。

更に、貧しい画家の植村喜八が、見世物小屋の踊り子である胡蝶をかくまう場面が描かれます。彼には胡蝶を追っていた男が存在し、この男こそが後にお蝶と関わりを持つことになります。ストーリーが進むにつれ、喜八はS温泉に訪れ、そこにいた進藤を通じてさらなる恐怖が明らかになります。進藤はお蝶の夫と名乗り、彼女の失踪について様々な謎を解き明かす役割を果たします。

物語のクライマックスには、三郎と喜八が底無し沼を調査し、さらには人間とも動物とも取れない怪物に遭遇する場面が用意されています。進藤の登場によって、過去の凄惨な出来事が明らかになり、怪物の正体がホテルの主人であることが語られます。彼は生存のため、かつて遭難した際の過酷な経験から人肉を食べる方法を選んでしまった存在なのです。

登場人物

• - 御納戸色: 小説の架空の著者であり、その正体は謎に包まれています。
• - 野崎三郎: ボヘミアンの洋画家で、未完成の作品ばかりを抱えながら生きる人物。
• - お蝶: 踊り子であり、魅力的な存在感を持つキャラクター。
• - 籾山ホテルの主人: 恐ろしい秘密を持つホテルの経営者。
• - 進藤: お蝶の夫を名乗り、物語の進行に重要な役割を持つ。
• - 植村喜八: 浮浪者のような生活を送りつつ、探偵としての才能を発揮する人物。

結論

『闇に蠢く』は、江戸川乱歩が描く怪奇な要素と探偵ミステリーが融合した作品で、そのストーリーは独特の緊迫感を持っています。読者は物語に引き込まれ、さまざまな登場人物の魅力に惹かれることでしょう。乱歩の独自の文体と複雑な筋立てが、この作品を特別なものにしています。

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