隈取

隈取（くまどり）について

隈取とは、歌舞伎特有の化粧技法であり、役者が演じる役柄に応じた特別な顔の装飾です。この技法の始まりは、初代市川團十郎が坂田金平役の初舞台で紅と墨を使用したことに遡ります。隈取は、観客が遠くからでも役者の表情を明瞭に認識しやすくするために工夫されています。この化粧は「描く」という表現ではなく「取る」と呼ばれることが特徴です。

隈取の特徴と役柄ごとの色

隈取の主な目的は、役者の血管や筋肉の形を誇張し、その役柄の性格を観客に印象づけることです。色や形状は役によって異なり、約束事のように決まっています。以下は役柄に使用される色の一例です：

• - 赤色（紅色）：勇気や正義、強さを示す役に使われ、荒事が表現される。
• - 藍色：迫力ある敵役に用いられる。
• - 茶色：鬼や妖怪のような不気味なキャラクターにふさわしい色です。

代表的な隈取の形

隈取にはいくつかの有名な型が存在し、それぞれ特定の役柄に特徴づけられています。

• - むきみ隈：若々しく色気のある正義感あふれる役に使用される。
• - 一本隈：頼りがいのあるやんちゃな役に。
• - 二本隈：落ち着きのある堂々とした役に適しています。
• - 筋隈：激しい怒りを表現し、超人的な力を持つ勇者に用いります。
• - 茶隈：妖怪や悪霊など、非人間的な役に。

上記以外にも、隈取には多様な型があり、それぞれの役柄を際立たせるために役者自身が工夫をこらしています。

隈取の発展

初代市川團十郎が独自の技法で隈取を創出した後、この技法は洗練されていきました。特に、二代目團十郎が牡丹の花の観察を元に考案した「ぼかし」の技巧は、隈取の特徴となりました。また、江戸の荒事と上方の和事の影響を受けつつ、隈取のデザインは多様化していきました。

現代において、多くの隈取は九代目市川團十郎や三代目市川新十郎によって伝えられたものです。新十郎は多くの隈取を研究し、著書『歌舞伎隈取』を出版しています。

現代の隈取とその影響

隈取の意匠は、スポーツ用品メーカーアシックスの陸上競技用ブランドGONAなどでも採用されたことがあります。一方で、隈取のデザインが誤解されるケースも増え、松竹は伝統的な隈取の理解と普及に努めています。加えて、松竹は「隈取り模様」の商標も登録し、正しい理解の促進を図っています。

歌舞伎の化粧法である隈取は、ただの装飾ではなく、深い文化的背景と役者の表現が重なった、特殊な芸術の一部であることを知っておくべきでしょう。

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