黄金都市

『黄金都市』：手塚治虫と横山光輝による魅力的な昆虫物語

手塚治虫と横山光輝という、日本の漫画史に名を刻む巨匠二人によって創作された『黄金都市』は、西部劇風の舞台設定と、意外な結末が特徴的な短編漫画作品です。一見すると荒涼とした西部劇の世界観ですが、物語が進むにつれて、その真の姿が明らかになっていきます。

手塚治虫による原作は、昭和25年（1950年）に『冒険紙芝居』新春別冊号に掲載されました。一方、横山光輝によるリメイク版は、1955年5月号の『少年』（光文社）別冊付録として発表されました。興味深いことに、この作品は横山光輝が少年誌で長編連載を行う前の作品であり、手塚治虫の作風を参考に執筆された4作品の一つに数えられます。他の作品には『海流発電』『ターザンの洞窟』『仮面の冒険児』があり、未発表作品『蜘蛛島の巻』も存在すると言われています。

物語は、船旅の途中で退屈しのぎにほら話を語る乗客たちから始まります。その中で、洞福博士（手塚版では「ホラフキ博士」）が語り始めたのが「黄金都市」という伝説の都市です。この都市は、女性たちが社会の中心となっており、男性たちは働かず、新しい市長が就任するたびに古い市長は都市を去るという独特の社会構造を持っています。西部劇風の雰囲気を醸し出しつつ、黄金都市は女性主体の社会であり、その社会システムや文化が詳細に描かれています。

黄金都市では食糧不足が問題となり、男性の排除という議論が浮上しますが、インディアンのようなアリ族との争いが勃発し、状況は一変します。乗客の一人であるケン一は、物語に引き込まれ、自ら黄金都市を守るために奮闘します。そして、男性排除は一旦保留となり、新たな市長は人口減少を防ぐため、大量の子供を産むことを目指すという展開に。しかし、男性たちは相変わらず働くことをせず、物語は皮肉な社会状況を浮き彫りにします。

物語のクライマックスでは、ケン一が現実世界に戻り、洞福博士の語っていた「黄金都市」が実はミツバチの社会だったという衝撃の事実が明かされます。西部劇風の冒険譚という外見とは裏腹に、ミツバチの生態系を巧みに織り込んだ、奥深い寓意を持つ物語となっています。

手塚治虫版『黄金都市』は、その後、いくつかのアンソロジーに収録され、2021年にはeBookJapanでのキャンペーンの一環として初電子書籍化が実現しました。横山光輝版も単行本化されており、両巨匠の異なる表現方法による『黄金都市』を現代の読者も楽しむことができます。

登場人物は、ほら話を語る洞福博士と、物語に深く関わっていく乗客ケン一の二人を中心に、黄金都市の住人やアリ族など、個性豊かなキャラクターが登場します。彼らの行動や言動を通して、手塚治虫と横山光輝の独特な世界観と、現代社会への鋭い風刺が感じられます。

『黄金都市』は、単なる冒険物語としてだけでなく、社会構造や女性像、そして自然界の秩序といった多様なテーマを内包した作品です。手塚治虫と横山光輝という二人の巨匠によって生み出された、読み応えのある、そして考えさせられる傑作と言えるでしょう。

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