黒蜥蜴

黒蜥蜴

『黒蜥蜴』は、江戸川乱歩による長編探偵小説で、1934年に月刊誌『日の出』で連載されました。この作品は、泥棒である美しい女性、別名「黒蜥蜴」と、彼女を追う名探偵・明智小五郎との緊迫した戦いを描いています。

あらすじ

物語は、帝都東京の暗黒街が舞台です。クリスマス・イブに開催されたパーティーで、その場の注目を集めるのが「黒衣の夫人」。その美貌に魅せられた人々の前で、彼女は全裸で踊る姿を見せつけ、左腕に描かれた黒いトカゲの刺青が印象的です。その夜、彼女は自身の手下である雨宮潤一とともに、富豪・岩瀬庄兵衛の令嬢、早苗を誘拐する計画を立てます。

黒蜥蜴は有閑マダムとして岩瀬に接近し、早苗を誘拐するための罠を仕掛けます。しかし、岩瀬はすでに名探偵明智小五郎を雇っており、早苗の身辺を警護させています。明智の巧妙な手段により黒蜥蜴は失敗を喫しますが、まんまと早苗をさらうことに成功。黒蜥蜴は早苗を人質にして、価値あるダイヤモンド「エジプトの星」との交換を要求します。

物語は、東京湾の廃倉庫での黒蜥蜴と早苗の心理戦へと進展します。黒蜥蜴は、宝石の他にも、彼女が収集した剥製や美術品を見せつけ、残酷な運命が早苗を待ち受けていることを示唆します。驚くべきことに、黒蜥蜴は魅力的な若者達を誘拐し、殺害し、剥製として保存していたことが明らかになります。この恐怖のコレクションに早苗も加わる運命にさらされています。

一方、明智小五郎は、早苗を救い出すために黒蜥蜴に挑み続けます。彼の機知と戦略が光り、数々のトリックが繰り出される中、黒蜥蜴との緊迫した駆け引きが繰り広げられます。最終的には、名探偵が暗黒街の中でどのように戦い、どのように勝利を収めるのかが焦点となります。

解説

本作は、江戸川乱歩が目指していた「エロ・グロ」の要素を巧妙に織り交ぜた作品です。黒蜥蜴が追う美しいものとしての宝石に対し、彼女の持つ残忍さとサスペンスに満ちた世界観が対照的に描かれています。また、この物語では追う者と追われる者が同じように魅かれ合うという、複雑な人間関係がテーマとして取り上げられています。

乱歩は『黒蜥蜴』を執筆するまで、創作のスランプを経験しており、本作はその後の彼の代表作となることが出来ました。明智小五郎シリーズの他の作品同様、推理小説としての高度な知的要素や、心理描写が豊かに描かれています。このチャレンジは、特に戦前の日本の文壇において、特異な地位を保つこととなりました。

主要登場人物

• - 黒蜥蜴: 美貌の盗賊で、作中での彼女の姿は暗黒街の華。その正体には謎が多く、恐ろしいコレクションを持っている。
• - 明智小五郎: 日本を代表する素人探偵でこの物語の主人公。彼の知恵と推理力が物議を醸す。
• - 岩瀬庄兵衛: 大阪で宝石商を営む富豪。娘である早苗の身を案じ、明智を雇い護衛させる。
• - 早苗: 岩瀬の令嬢で、黒蜥蜴によって誘拐され、命の危険に晒される。彼女の美貌もまた狙われる要素である。
• - 雨宮潤一: 過去を持つ青年で、黒蜥蜴に従う。

『黒蜥蜴』は、途中で挿入される黒蜥蜴の人間椅子トリックや、華麗な心理戦が魅力的であり、探偵小説ファンにとっては必読の作品です。この物語の真骨頂は、明智と黒蜥蜴との間に存在する独特の緊張感にあり、それが物語全体を引き締めています。

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