鼠色

鼠色（ねずみいろ）とは

鼠色とは、一般的にグレー（灰色）系統の色を指す言葉です。特に、わずかに青みがかった灰色を指す場合もあります。この色は、ネズミの体毛の色に由来しており、その名称が付けられました。しかし、他の語と組み合わさる際には「ねず」と略されることが多く、単独で「ネズミ」と呼ぶことは誤用とされています。

歴史

鼠色という言葉が使われるようになったのは、17世紀前半、江戸時代の初期と考えられています。それ以前の平安時代には、グレー系統の色を総称して「鈍色（にびいろ）」と呼んでいました。この鈍色は、墨色、つまり黒に近い色と認識されており、喪の色として扱われていたため、日常生活で好んで使われることはありませんでした。

鎌倉時代に入ると、禅宗の影響を受けた枯山水や水墨画といった無彩色の芸術が流行しました。これにより、「墨に五彩あり」というように、華やかな色から落ち着いた色への嗜好が変化し、無彩色の中に深みや精神性を見出す傾向が強まりました。室町時代には、この流れを受け、侘び寂びの美学が発展しました。

江戸時代初期には、戦乱の痛手がまだ残っており、火事を連想させる「灰」色を忌み嫌う風潮がありました。その一方で、江戸幕府が倹約を奨励し、贅沢を取り締まる政策を敷いたことで、庶民が自由に使える色には制限がありました。その中で、茶色系、鼠色系、藍色系といった、比較的落ち着いた色が主に用いられるようになりました。江戸の町人は、着物の表地に地味な色を使い、裏地に派手な色を使うなど、地味な色合いが華やかな色を引き立てる効果を狙い、様々な工夫を凝らしました。この時期には、紅鳶色のような華やかな茶色系も人気がありましたが、次第に地味な色に品格を見出すようになっていきました。

江戸中期頃からは、色の流行は茶色から鼠色へと移り変わっていきました。

鼠色の種類

鼠色は、白と黒の中間にある無彩色を指す総称ですが、灰色と区別する際には、やや青みがかった色を指します。色の濃さによって様々な呼び名があります。

濃い順に

消炭鼠（けしずみねず）: チャコールグレー
丼鼠（どぶねず）: スレートグレー
濃鼠（こねず）: ダークグレー
素鼠（すねず）: グレー
銀鼠（ぎんねず）: シルバーグレー
白鼠（しらねず）: ペールグレー
銀鼠のやや白っぽいものを「小町鼠（こまちねず）」とも呼びます。


赤系統の色が混じったもの

小豆鼠（あずきねず）
臙脂鼠（えんじねず）
猩々鼠（しょうじょうねず）
紅鼠（べにねず）
梅鼠（うめねず）
薄梅鼠（うすうめねず）
牡丹鼠（ぼたんねず）
葡萄鼠（ぶどうねず）
紅消鼠（べにけしねず）
暁鼠（あかつきねず）
日の出鼠（ひのでねず）
鴇鼠（ときねず）
桜鼠（さくらねず）

黄色系統の色が混じったもの

山吹鼠（やまぶきねず）
黄鼠（きねず）
玉子鼠（たまごねず）
島松鼠（しままつねず）
壁鼠（かべねず）
生壁鼠（なまかべねず）

緑系統の色が混じったもの

利休鼠（りきゅうねず）
柳鼠（やなぎねず）
松葉鼠（まつばねず）
呉竹鼠（くれたけねず）
浮草鼠（うきくさねず）

青系統の色が混じったもの

藍鼠（あいねず）
藍気鼠（あいきねず）
相生鼠（あいおいねず）
納戸鼠（なんどねず）
深川鼠（ふかがわねず）
淀鼠（よどねず）
浪花鼠（なにわねず）
鴨川鼠（かもがわねず）
軍勝鼠（ぐんかつねず）
水色鼠（みずいろねず）
空色鼠（そらいろねず）
湊鼠（みなとねず）

紫系統の色が混じったもの

紫鼠（むらさきねず）
源氏鼠（げんじねず）
貴族鼠（きぞくねず）
藤鼠（ふじねず）
桔梗鼠（ききょうねず）
鳩羽鼠（はとばねず）

茶色系統の色が混じったもの

茶鼠（ちゃねず）
茶気鼠（ちゃけねず）
遠州鼠（えんしゅうねず）



これらの多様な鼠色は、日本の文化や歴史の中で生まれ、それぞれの色合いに独自の美意識が反映されています。

参考資料

福田邦夫『すぐわかる　日本の伝統色』東京美術 ISBN 4-8087-0784-5
吉岡幸雄『日本の色辞典』紫紅社 ISBN 4-87940-549-3
* 長崎盛輝『かさねの色目　平安の配彩美』青幻社ISBN 4-916094-54-9

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