ΜCOMシリーズ

NEC μCOMシリーズ：日本のマイクロプロセッサ黎明期を支えた技術

NEC μCOMシリーズは、日本電気株式会社（NEC）が1970年代から1980年代にかけて製造・販売したマイクロプロセッサおよびマイクロコントローラのシリーズです。世界最古級のマイクロプロセッサ開発に端を発し、4ビット、8ビット、16ビットと幅広い製品群を展開。日本のエレクトロニクス産業発展に大きく貢献しました。

μCOMシリーズの起源：世界最先端技術への挑戦

μCOMシリーズの始まりは、2チップ構成のμPD707・708というマイクロプロセッサです。これは、日本コカ・コーラ社の販売管理システム向けに、シャープからの依頼をNECが引き受け開発したものです。1971年12月、世界最古級のマイクロプロセッサとしてサンプルが完成しました。この成功を足掛かりに、NECは多様なマイクロプロセッサ、マイクロコントローラの開発に乗り出し、汎用的な製品には「μCOM-」というシリーズ名が付けられました。

製品群：4ビット、8ビット、16ビットマイクロプロセッサ／コントローラの多様なラインナップ

μCOMシリーズは、大きく分けて4ビット、8ビット、16ビットの製品群から構成されていました。

μCOM-4系（4ビット）

μCOM-4（μPD751）はNECオリジナルの4ビットマイクロプロセッサです。Intel 4040とは異なり、データバスとアドレスバスが分離された設計が特徴です。その後継機種として、PチャネルMOS、NチャネルMOS、CMOSといった様々な技術を用いたμCOM-41（μPD541）、μCOM-42（μPD548）、μCOM-43シリーズなど、多くのバリエーションが開発されました。これらは、周辺LSIとの組み合わせにより、様々な組み込み機器に用いられました。

μCOM-8系（8ビット）

μCOM-8系は、インテルやザイログの製品との互換性を持つ製品と、NEC独自の製品の両方をラインナップしていました。μCOM-8（μPD753）はインテル8080互換ですが、パッケージや端子配置は異なります。μCOM-80（μPD8080A）は8080とのピン互換性を追求したモデルです。Z80互換のμCOM-82（μPD780）、Intel 8048互換のμCOM-84（μPD8048など）といった製品群も展開されました。また、NEC独自の8ビットマイクロコントローラであるμCOM-87、μCOM-87ADシリーズは、A/D変換機能を搭載し、独自のレジスタ構成を持つなど、高度な機能を備えていました。 特に、μCOM-87ADシリーズは、QUIPと呼ばれる独特のパッケージを採用し、実装性の高さから好評でした。

μCOM-16系（16ビット）

μCOM-16はNECオリジナルの16ビットマイクロプロセッサです。2チップ構成で、レジスタ・ALU、コントローラ、10進ALUといった複数のチップから構成されていました。μCOM-1600（μPD768）は、1チップ化を実現したモデルで、64ピンパッケージと、当時としては高度な機能を備えていました。

μCOMシリーズの系譜とその後

1980年代に入ると、Vシリーズや78Kシリーズといった新しいマイクロプロセッサ／マイクロコントローラが登場し、μCOMという名称は使われなくなりました。しかし、μCOMシリーズで培われた技術は、NECのその後の製品開発に大きな影響を与え、日本のエレクトロニクス産業の進歩に貢献したと言えるでしょう。μCOMシリーズは、日本のコンピュータ技術発展における重要なマイルストーンであり、その歴史的意義は非常に大きいと言えるでしょう。

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