ΜPD7220

μPD7220：80年代を彩ったグラフィックコントローラの軌跡

μPD7220（ミューピーディー7220）は、日本電気（NEC）が設計・開発・製造した、ビットマップディスプレイへの線、円弧、文字の描画機能を持つインターフェースコントローラーです。High-Performance Graphics Display Controller 7220、NEC 7220、GDCといった呼び名でも知られています。

当時としては画期的なワンチップ集積型のグラフィックディスプレイコントローラーとして、NECのPC-9800シリーズを始め、APC III、DEC Rainbow、Tulip System-1、エプソンQX-10、沖電気if800 model 50など、様々な機種に採用されました。その高い性能と低コスト設計は、ナンバー・ナイン・ビジュアル・テクノロジーといったハイエンドビデオカードにも採用されるほどでした。

開発と普及

NECインフォメーション・システムズ（NECのアメリカ支部）が1979年に開発に着手し、1981年には論文が発表されました。1983年にはNEC自身のコンピュータだけでなく、DECやWang Laboratoriesといった他社のコンピュータにも採用され、急速に普及しました。当時の報道では、その優れた性能から競合他社も採用せざるを得ないほどだったと評されています。Apple Lisaが発表された際、なぜμPD7220を採用しなかったのかという疑問が提起されたほどです。

開発陣は、部品点数の削減とコスト低減のためビットマップグラフィックを採用しました。しかし、開発開始時点ではμPD7220はまだ入手困難であり、同等の機能を汎用ロジックで構築する方が安価だったという事情もありました。また、ディスプレイメモリへのアクセスが画面更新サイクルの一部分に制限されていた点も、制約の一つでした。

セカンドソースと派生機種

μPD7220は1982年にインテルが82720として、1983年にはスタンダード・マイクロシステムズがセカンドソースとして製造しました。インテル版は同社のGPUの中でも長らく現行製品として存在し続けました。東ドイツでもU82720というコピー製品が作られ、ザイログZ80のコピーであるU880と共に使用されました。

後継機種としては、CMOSプロセスを用いた高速版のμPD72020や、16ビットインターフェースに対応したμPD72120 Advanced Graphics Display Controller (AGDC)があります。μPD72120はElectronics Design誌の1987年の上位100製品にも選ばれました。さらに、μPD72120をベースに動作クロックを向上させ、機能強化したμPD72123も登場しています。ただし、μPD72020とμPD72120はμPD7220とは互換性がありません。

内部構造と性能

μPD7220は2つのI/Oチャネル（A0とA1）を持ち、A0はステータス読み出し、A1は内部キューからのデータ読み出しに使用されます。レジスタへの書き込みは、A1がコマンド、A0がパラメータです。8ビットデータパスを持ち、4MHzから5.5MHzの動作クロックで動作していました。これは当時としては非常に高速でした。

例えば、当時のPC-9801に搭載されたi8086と比較すると、μPD7220の描画速度は直線、円弧に関わらず800ns/ドットでした。一方、i8086が1バイトデータを書き込むだけでも14クロック（5MHz動作の場合、200ns/クロック）を要するため、μPD7220の方が圧倒的に高速であったことが分かります。ただし、μPD7220はi8086と比べてパラメータ設定が複雑でした。

まとめ

μPD7220は、その高い性能と低コスト設計、そして様々な機種への採用によって、80年代のコンピューティング技術の発展に大きく貢献しました。その技術的遺産は、後のグラフィック処理技術にも影響を与え続けています。本稿では、μPD7220の技術仕様、採用事例、派生機種、そして競合製品との比較を通して、その歴史的意義を改めて検証しました。今後の研究においても、μPD7220の技術的な詳細や、当時の開発環境に関するさらなる調査が求められます。

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