あこがれ (1958年の映画)

フランソワ・トリュフォーの原点『あこがれ』：無垢な憧憬とほろ苦い青春の光

『あこがれ』（原題: Les Mistons）は、1958年に公開されたフランソワ・トリュフォー監督によるフランスの短編映画です。モーリス・ポンズの同名短編小説を原作とし、トリュフォーにとって本格的な短編処女作となりました。

ストーリー

物語は、南仏の街を舞台に、ベルナデットという美しい女性に夢中な少年たちの視点から描かれます。ベルナデットは、いつも風を切って自転車に乗る活発な女性。少年たちは、彼女のスカートから覗く脚にドキドキしたり、彼女が乗り捨てた自転車のサドルに残り香を嗅いだりと、無邪気な憧れを抱いています。

しかしある日、ベルナデットが恋人のジェラールとデートしているのを目撃し、少年たちは激しい嫉妬に駆られます。そして、2人のデートを邪魔しようと、あの手この手で妨害工作を仕掛けるのです。行く先々を追いかけ回し、嫌がらせを繰り返す少年たち。怒ったジェラールに追い払われても、ベルナデットに会えるならと諦めません。

そんな中、ジェラールが徴兵され、ベルナデットと別れることになります。少年たちは、複雑な感情を抱きながら、それぞれの成長へと向かっていくのです。

映画の特徴

少年たちの視点：物語は一貫して少年たちの視点から語られます。彼らの無邪気な憧れ、嫉妬、そして成長が、瑞々しい映像で描かれています。
ヌーヴェルヴァーグの先駆け：トリュフォーはこの作品で、後のヌーヴェルヴァーグを特徴づけることになる、ロケーション撮影、即興演出、そして個人的なテーマといった要素を試みています。
映画への愛：作中には、ジャック・リヴェット監督の『王手飛車取り』が引用されるなど、トリュフォーの映画への愛情が随所に散りばめられています。

制作の背景

トリュフォーの製作会社レ・フィルム・デュ・キャロッス設立第1作。
ベルナデット役のベルナデット・ラフォンとジェラール役のジェラール・ブランは当時夫婦だったが、トリュフォーの熱意により、ジェラールの反対を押し切ってベルナデットの出演が決まった。そのため、トリュフォーとジェラールの間には確執があったという。2人は映画の後に離婚している。
助監督として、後にトリュフォー作品の脚本を共同執筆するクロード・ド・ジヴレーが参加。

評価と影響

『あこがれ』は、トリュフォーの才能を世に知らしめた作品として高く評価されています。少年たちの視点から描かれる、恋愛の初期衝動とほろ苦い青春の光景は、観る者の心を掴んで離しません。また、ヌーヴェルヴァーグの先駆けとして、後の映画史に大きな影響を与えました。

キャスト

ベルナデット：ベルナデット・ラフォン
ジェラール：ジェラール・ブラン
子どもたち：アラン・バルディ、ロベール・ビュル、アンリ・ドマエグト、ディミトリ・モレッティ、ダニエル・リコー
ナレーション：ミシェル・フランソワ

スタッフ

監督：フランソワ・トリュフォー
原作：モーリス・ポンズ
* 助監督：クロード・ド・ジヴレー

『あこがれ』は、フランソワ・トリュフォーの原点であり、映画史に残る傑作短編です。無垢な憧憬とほろ苦い青春を描いたこの作品は、いつまでも色褪せることなく、観る者の心に響き続けるでしょう。

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